1ページ目から読む
2/3ページ目
オリンピック史上に残る不名誉な大会
松平はミュンヘン五輪金メダル監督として、世界のスポーツ界に知己が大勢いた。そのルートを頼り、IOCのキラニン会長に面会を求めた。
スイスのホテルで松平は、キラニン会長を目の前に熱弁を振るった。
「政治の介入はオリンピック憲章違反。だからIOCは今回に限り、個人参加を認めて欲しい」
しかし、アイルランド人のキラニン会長は首を縦に振らなかった。
「不参加を決めた国の選手、チームの個別参加は認められない」
万事休す――スイスに滞在する松平から電話を受け取った小島は、身体から何かが崩れ落ちていくのを感じた。
「この決定が、後々日本バレー界に悪影響を及ぼさなければいいが……」
ソ連のアフガン侵攻という愚行があったにせよ、もとを正せば、カーター米大統領の選挙活動が世界のスポーツ界を混乱させたと言ってもいい。
モスクワ五輪は、一政治家の思惑によって66カ国が不参加という、オリンピック史上に残る不名誉な大会となった。