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連載日の丸女子バレー 東洋の魔女から眞鍋ジャパンまで

「言うことを聞くのは当然だ」天才セッター中田久美・誕生前夜、政治介入と戦った女子バレー“伝説の男”

日の丸女子バレー #18

2022/02/12
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オリンピック史上に残る不名誉な大会

 松平はミュンヘン五輪金メダル監督として、世界のスポーツ界に知己が大勢いた。そのルートを頼り、IOCのキラニン会長に面会を求めた。

女子バレー以外にも金メダルを有力視されていた競技・選手は数多くいた(写真は柔道・山下泰裕) ©文藝春秋

 スイスのホテルで松平は、キラニン会長を目の前に熱弁を振るった。

「政治の介入はオリンピック憲章違反。だからIOCは今回に限り、個人参加を認めて欲しい」

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 しかし、アイルランド人のキラニン会長は首を縦に振らなかった。

「不参加を決めた国の選手、チームの個別参加は認められない」

 万事休す――スイスに滞在する松平から電話を受け取った小島は、身体から何かが崩れ落ちていくのを感じた。

「この決定が、後々日本バレー界に悪影響を及ぼさなければいいが……」

 ソ連のアフガン侵攻という愚行があったにせよ、もとを正せば、カーター米大統領の選挙活動が世界のスポーツ界を混乱させたと言ってもいい。

 モスクワ五輪は、一政治家の思惑によって66カ国が不参加という、オリンピック史上に残る不名誉な大会となった。