2019年の刊行以来、日韓で一冊の本が大きな話題を呼んでいる。元ソウル大教授、現・李承晩学堂校長の李栄薫(イ・ヨンフン)氏が中心となり、慰安婦問題、徴用工問題、竹島問題などを実証的な歴史研究に基づいて論証、韓国にはびこる「嘘の歴史」を指摘した『反日種族主義 日韓危機の根源』(文藝春秋)である。
ここでは同書より一部抜粋して、慰安婦問題の歴史について紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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日本軍慰安婦問題による葛藤の原因
1991年、日本軍慰安婦問題が発生しました。
金学順(キムハクスン)という女性が、日本軍慰安婦だった自分の経歴を告白しました。以降、百七十余人の女性たちが、自分も同様の経験者だった、と告白しました。彼女たちは、自分たちを慰安婦として連れて行った日本軍の犯罪行為に対して、日本の謝罪と賠償を要求しました。
それから今までの28年間、この問題をめぐって韓国と日本の関係は悪化の道を歩んで来ました。韓国人の日本に対する敵対感情は益々高まりました。日本の首相が何回も謝罪をし、補償を試みましたが、元慰安婦と彼女たちを支援する団体は、拒否しました。彼らは関連事案が日本の戦争犯罪であるため、日本が法律を制定し、公式の謝罪と賠償をすることを要求しました。
日本政府は、そのような事例ではない、と拒否しました。何回か政府間の妥結がなされましたが、解決策にはなりませんでした。韓国内でさえ、それに対する意見は一致しませんでした。例えば、朴槿恵政権は日本政府との間で、この問題を最終的かつ不可逆的に清算するという協約を締結しました。しかし文在寅政権は、それを破棄しました。そして日本政府はそのことに対して反発し、両国関係は、さらに悪化しました。
私は、研究者の一人として指摘します。日本軍慰安婦問題に関する韓国側の理解には、多くの問題があります。ある問題に対して隣の国と争うとき、史実認識の水準に大きな差異があれば、例えば、一方が相手が認めていない史実が実在しているかのように主張すれば、討論や妥協は難しくなります。ここまでの28年間、両国の友好関係が大きく損なわれたのには、問題の実態を客観的に理解しない韓国側の責任が大きいと思います。
率直に言って、この問題に関する韓国側の優秀な学術書は一冊もない、と言ってもよいほどです。今からしっかりとその話をしていきたいと思います。