《現実では、結婚相手の親についてそんなに深く知ることってないじゃないですか。だから、「こんなに優しいお母さんや温かい家族に大切にされて、るいは育ったんだな」と、見るだけで感情が大きく動くんですよね。それが僕の中のジョーに大きな影響を与えましたし、皆さんのお芝居の全てが、僕の役作りに反映されています》(※1)
オダギリはドラマの前半を見ながら、登場人物たちの関係性を把握するとともに自分の役の位置づけを探っていったのだろう。こうした役のつくり方は彼が以前より心がけてきたことでもある。
朝ドラにも生かされた「役作りの方法論」
NHKの大河ドラマ『八重の桜』(2013年)では同志社の創立者である新島襄(このときも役名が「ジョー」だった)、映画『FOUJITA』(2015年)では画家の藤田嗣治、さらに映画『エルネスト』(2017年)ではキューバ革命の英雄チェ・ゲバラとともに戦った日系ボリビア人であるフレディ前村ウルタードと、オダギリは有名無名を問わず、歴史上の実在の人物を演じることも少なくない。しかし、彼はそういう場合でも、演じる人物の実像を本を読むなどして理解するよりも、その作品のなかの人物として存在することを考えるという。
『八重の桜』出演にあたっては、同志社大学の先生にも話を聞いたが、実際の新島襄は、情熱はあるもののどちらかといえばちょっと暗い人物だったらしい。それをオダギリは、劇中での新島は戊辰戦争で辛い経験をした主人公の八重を夫として支えていく役柄ゆえ、あくまで明るくポジティブなキャラクターとして存在したいと思って演じた(※2)。
オダギリは郷里・岡山の高校を卒業後、アメリカの大学で演技を学んだが、そこでは技術的なことよりも、演技者の内側を重視する方法論を教わったという(※3)。形から入るのではない役づくりも、それがベースにあるのかもしれない。
人間の内側を重視する姿勢は、映画監督としての長編第1作『ある船頭の話』(柄本明主演、2019年)にも貫かれている。山間を流れる川の両岸を行き来する渡し船の老船頭を描いた同作では、ストーリーと直接には結びつかない会話も多い。だが、オダギリに言わせると、そういう会話の積み重ねから、登場人物のキャラクターが浮き彫りになり、関係性が表現できるのだという(※4)。