なんじゃこりゃあ! 多くの人が、テレビの前で、『太陽にほえろ!』の殉職シーンで松田優作が口にした台詞を叫んだはずだ。
朝ドラマ『カムカムエヴリバディ』安子編の最終シーン。娘のるいから、一緒に暮したくないと拒絶された雉真(きじま)安子(上白石萌音)は放心状態となり、自分に求愛した進駐軍将校ロバート・ローズウッド(村雨辰剛)に、アメリカへわたしを連れていってと口走る。
どうした、安子! るいが命じゃ、宝じゃと言ってた安子が娘を置いてアメリカに行くなんて。
失踪した兄の橘算太(たちばなさんた/濱田岳)を大阪で探すうち、疲労で安子は昏倒。眠りから覚めた安子を、ロバートが介抱する。ハグをする二人を、母に会うため家出してきた娘が、ボロ家の外から窓越に見てしまう。
再会した娘は、とりつくしまもない。近づくと、るいは額の傷を見せ、憎しみをこめて「I hate you」(大嫌い)と言い放つ。これで親娘のつながりが終ってしまうなんて。るい、機嫌を直してとか、言葉をかけてやらにゃ。こんな悲惨な結末なんてという憤りの声がSNSにはあふれた。
好きなドラマだったんだけど。特に最初の二、三週ね。英語が喋れる大学生の雉真稔(松村北斗)に憧れ、早朝のラジオ英語講座を聞く安子。夏休みが終り、大阪へ帰る稔に「メイ アイ ライト ア レター トゥ ユー?」と、たどたどしいけど必死で伝える姿が健気だった。もちろん僕も書くよと稔。「安子はまだ、ほんの十四歳でした」のナレーションが重なる。
夏休み。二人で入った喫茶店で、ルイ・アームストロングの「On the Sunny Side of the Street」が流れる。日向(ひなた)の道を歩こう、か。そう呟く稔を、うっとり見つめる十四歳の安子。二人して日向の道を歩く。その想いから「るい」「ひなた」の名が生まれた。
安子の最愛は何だったのだろう。英会話が堪能な稔か。憧れの国、アメリカか。稔の忘れ形見のるいか。それとも英語それ自体なのか。日向どころか、ずぶ濡れの雨の中で、安子は稔を殺した国の軍人の求愛を受け入れた。
坂口安吾『堕落論』の一節を思う。「けなげな心情で男を送った女達も半年の月日のうちに夫君の位牌にぬかずくことも事務的になるばかりであろうし、やがて新たな面影を胸に宿すのも遠い日のことではない」
しかしまったく救いのない母娘の別離で安子編を終えるとは。やがて十代後半になったるい(深津絵里)は岡山を離れて大阪を目指す。額と心に大きな傷を負った少女は、大都会で日向の道を見つけることが出来るのだろうか。
るいがどんな出会いを経て、ひなたの母となるか。それを知るために、また毎日観つづけてみるよ。
INFORMATION
『カムカムエヴリバディ』
NHK 月~土 8:00~
https://www.nhk.or.jp/comecome/