「伝統」とはなんぞや
ブランドイメージの核を作るために使ったのが、歴史学や文化人類学、民俗学などで用いられてきた「伝統の創造」という理論です。どのような理論かというと、「伝統」なるものが実は近代以降に作られたものだと捉える考え方です。
伝統というと、一般的には「昔から変わらずに続いてきたもの」とお考えになるかと思います。「昔から変わらずに続いてきたからこそ、守らなければならない大切な文化なのだ」と。このような一般的な「伝統」概念からすると、「創られた伝統」というのはずいぶん矛盾した概念に聞こえるかもしれません。ずっと昔から続いてきたからこそ「伝統」なのに、そう遠くない過去に創られたならそれは「伝統」とは言えないのではないか、と。
実は、伝統という概念は、単に昔から続いてきた文化全てに用いられているわけではありません。伝統という言葉には、「これは古くから続いており、権威や正統性を持った守るべき文化なのだ」という歴史的な正統性についての主張が確実に含まれています。昔から続いているのにもかかわらず、「伝統」とは呼ばれず逆に「因習」やら「迷信」とみなされて消失していく文化はいくらでもあります。
例えば、代表的な伝統芸能である歌舞伎ですが、現代風に言えばその始まりは単なる反体制のロックンロール。民衆に支持されることはあっても、当初は国として守るべき文化であったはずがありません。それが今や国として守るべき「伝統」であると祭り上げられているのです。歌舞伎に限りませんが、民俗学の観点から見てみると、現在は「伝統」とされているものの多くが、実は近代に入ってから脚色・捏造されたものを多分に含んでいることが分かります。そこで私は、このようないわば「先例」に従って、従来は価値がないものとされていた要素を「価値があるものである」と読み替えることができるのではないか、と考えたのです。