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日本の農家は「農作物と会話する能力」がある? “1本5000円のレンコン”を売り続けた民俗学者農家が語る日本産の農産物の質が高いワケ

『「やりがい搾取」の農業論』より #1

2022/02/21
note

農業のビジネス性

 ですから、私が「伝統の創造」を用いて何よりも行いたかったのは、古くからの日本の農業の特徴である農家特有の職人的な要素を「価値あるもの」として読み替えていくことだったのです。

 従来、「農作物と会話する能力」のような農家特有の職人的な要素を強調するのは、農業のビジネス性を軽視する思想を持った人々ばかりでした。しかし、父親として子供たちを養い、会社役員として社員を雇用する立場にある私にとって、ビジネス性は絶対なのです。

 一方、ビジネスを優先する農業において主流なのは、効率性や合理性を重視した農業です。しかし、そのような農業においては、「農作物と会話する能力」のような農家特有の技能や技術の重要性は、ほとんど一顧だにされてきませんでした。私は、この農家特有の技能・技術をビジネスに活かすことによって、レンコンの価格引き上げ、農業にはびこるやりがい搾取の解消、低い職業イメージの底上げなど、さまざまな課題を解決する糸口が見えるのではないかと考えたのです。

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 レンコンに1本5000円という高額な価格設定を行うことにより、それまで社会的な価値など全く無かった農家の技能や技術に歴史的な正統性を与え、その価値を社会に認めさせようと考えたわけです。

【続きを読む】「価値があるから高価なのではなく、高価だから価値がある」日本の農業をよみがえらせる“常識外れのブランド戦略”とは

「やりがい搾取」の農業論(新潮新書)

野口憲一

新潮社

2022年1月15日 発売

日本の農家は「農作物と会話する能力」がある? “1本5000円のレンコン”を売り続けた民俗学者農家が語る日本産の農産物の質が高いワケ

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