吉本退所のニュースに、多くの人はこう思っただろう。「YouTubeも順調だし、事務所に頼らなくてもやっていけそう」。実際に「何人かにはそう言われました」となかやまきんに君。しかし彼にとってYouTubeの登録者数約150万人という数字は決して「成功」ではなかった。

「たまたまです」と言い切るきんに君の根底にある、自らが生み出した“筋肉芸”への疑問や焦り。「未来のない笑い」への不安があの筋肉留学へと彼を駆り立てた。 (全3回中の2回目/1回目を読む)

なかやまきんに君

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「筋肉留学」で痩せてしまった“真相”

――先ほど「筋肉留学で痩せてしまった」とお話しされていましたが、それはなぜ? 

きんに君 筋肉留学ではサンタモニカ・カレッジというところに通って卒業したんですけど、当たり前ですが、授業は全て英語なんですね。僕はキネジオロジーという運動生理学部に通っていたので、解剖学とか生理学、それ以外に国語や社会や数学も英語でやるんです。それがめちゃめちゃ大変で。

 毎日朝3時ぐらいまで勉強して、6時に起きて学校に行く。学校が昼過ぎぐらいに終わったら、そこからまた3時まで勉強……。最初は教科書1ページ読むのにも1時間ぐらいかかるので、まず大事なところをノートにまとめて、それをさらに何回も書いて覚えるんです。

 書きすぎて右手が痛くなって使えなくなるので、次は左手で書いて、左手も痛くなって使えなくなると、今度グーで握って書くんですよ。 

――壮絶……。 

きんに君 だんだん目がかすんで見えなくなるので、自分のノートを見て目を閉じて、頭の中で書いて覚えて……というのを本当にずっとやってました。大体、月から木まで授業が入ってるから、木曜日の夕方ぐらいになると「ああ今週も乗り越えた」って安心するのか、ちょっと熱が出る(笑)。風邪じゃないのに。

 それで、土日は寝込みながら、ちょっと起きて勉強して。また寝て、ちょっと起きて勉強して。日曜日の夜になると、気合いが入るのかすっと元気になる。そんな日々でした。 

 学校からビーチ沿いの道を通ってホストファミリーの家に帰る時、週末になるとレストランでみんながちょっとおしゃれして飲んだり食べたりしてるのが目に入るんです。一方、僕はひとりでそこを車で通る。それでたまに思うわけですね、なんでこんなことしてるんだろうと。 

――「筋肉留学」というキャッチーさとは真逆の……。 

きんに君 周りは18歳、19歳ぐらいの「英語を勉強して将来の仕事に活かすぞ」っていう人たちばかりだったんですけど、僕はその時30歳。これを勉強して卒業して帰っても、タレントや芸人としては、役に立たないというのはわかってたんです。だって「サンタモニカ・カレッジ行って運動生理学を勉強してました」って言っても「へええ」としかならないですから。

 

 だから「何学んでたの」って言われて「発音が良くなりました。アーノルド・シュワルツェネガー」って。「それだけかい!」みたいな。もうそれしかフォーカスはされません。 

――ああ。 

きんに君 だから「なにしてきたん、ガリガリやし、意味ないやん!」で、もうごまかさないといけなかったんです。

 サンタモニカカレッジに入学する前も「いや、30歳で大学行って勉強するよりも、アメリカを色々回ったりして経験積んだ方がタレントとして役に立つのに」みたいなことを言われてたんですよ。でも「そういうのはいつでもできる」って思ってたんです。

 僕は頑張ったものはいつか必ず役に立つ時が来ると思ってるところがあるんですけど、実際に今、YouTubeでアメリカに英語で取材に行けば「うわっすごいな」ってなりますし。あの頃勉強したものによって、動画にも説得力や厚みが出ているわけですから。