すごいね、毎田暖乃(まいだのの)。あの芝居の巧さはなんなの。悪達者すれすれというか。まだ十歳の少女が、嫌味になる寸前で演技に緩急つけて、観る者を笑わせ、ほど良く泣かしてみせる。
冬ドラマの最優秀女優賞は、毎田暖乃で決まりだ。堤真一が主演の『妻、小学生になる。』で、堤の妻を演じる女の子だ。
誰がみても幸福そのものの三人家族が大型トラックとの衝突事故に遭う。妻の新島貴恵(石田ゆり子)は死亡、夫の圭介(堤真一)と娘の麻衣(蒔田彩珠〈まきたあじゅ〉)はゾンビのように暮す。生きているが、死んでいる。
その十年後、すっかり生気を喪った新島家に、赤いランドセルを背負った元気な小学生がピンポンを鳴らす。少女は一声「ただいま!」と叫びドアを開けて家に飛びこむ。
「あたしは新島貴恵、あんたの妻!」。そ、そんな。呆然とする圭介。
一体、何が起きたのか。「きょう、いきなり思いだしたのよ。あ、わたし新島貴恵だって」。ポカーンとする圭介と麻衣。テーブルに置かれたコンビニ弁当を見た小学生は「中身はちゃんとお皿の上に置いて食べるのよ」。
夕焼け小焼けのチャイムが鳴った。女の子は急いで帰り支度をしながら、「いくら十年たったといっても老けこみ過ぎよ。どこの爺いかと思ったわ」と言い放って家を出た。
異界転生テーマっていうの。死者(ときに生者も)が、唐突に異世界で甦り活躍する。近年はゲーム世界と連動し、転生先では異世界をすでに熟知した強味を発揮し、無敵の勝者に。
なぜ転生か? 説明抜きのご都合主義だし、主人公は万能だから、願望充足物語だ。SFやファンタジーとは似て非なるものだ。
でもね、このドラマはひと味、違う。快活で、しっかり者で美人。石田ゆり子が演じる妻が亡くなってから、無気力なまま生きてきた中年男が、妻の帰還でにわかに生気を取り戻す。
会社では閑職に飛ばされていたが、表情も溌剌としてくる。おかげで、ずっと年下の女性上司(森田望智〈みさと〉)とも、昼のお弁当友達になり、「一緒にいるとホッとする人。なんだか可愛いぞ」と思われる存在に。
ともかく大人顔負けの台詞廻しで動きまわる毎田暖乃が見ていて飽きない。だけど、どこか不安だ。
急に転生したように、また突然どこかへ去ってしまうかもしれない。ここまでは、あまりにも幸福すぎたから、きっと辛い展開が待っているのかなって。
いまのところ、貴恵と圭介の難敵は、厳しく冷徹な顔をした、現在の貴恵の母親(吉田羊)と、歳の離れ過ぎた二人を、怪しいぞと疑惑の目で見る世間だけだが。あの家族が幸せでありますように。主役二人の他に蒔田と森田も好演。
INFORMATION
『妻、小学生になる。』
TBS系 金 22:00~
https://www.tbs.co.jp/tsuma_sho_tbs/