「名選手名監督にあらず」という言葉があるように、スポーツ界では現役時代に優秀な成績を収めたからといって、指導者として大成するとは限らない。しかし、ジネディーヌ・ジダンは違った。選手としてはフランス代表の10番を背負い続け、監督としても計6シーズンの在任期間で11ものタイトルを獲得。さらに、2019-20シーズンにはリーガ最優秀監督に贈られるミゲル・ムニョス賞を受賞するなど、その実績は疑いの余地がない。
しかし、関西リーグの「おこしやす京都」でサッカー戦術兼分析官を務める龍岡歩氏によると、ジダンのチームには戦術的な制約や縛りがほとんど見えてこないのだという。それでは、なぜジダンが率いたレアルマドリードは好成績を残し続けられたのだろうか。ここでは、同氏の著書『サッカー店長の戦術入門 「ポジショナル」vs.「ストーミング」の未来』(光文社新書)の一部を抜粋。監督・ジダンの戦略的発想に迫る。(全2回の1回目/後編を読む)
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監督ジダンは選手ジダンを使えるのか?
アンチェロッティはファンタジスタ(スター選手)を使うために苦悩し、ダービッツやガットゥーゾのような選手でギリギリのバランスを取る発想に至った。ジダンが選手として所属したマドリーでは、監督のデル・ボスケが労働者マケレレにその負担を一手に担わせジダン、ルイス・フィーゴ、ラウール・ゴンザレス、ロナウドらのスター選手を同時起用するためのバランスを図った。
翻ってジダンは、労働者のカゼミーロをまずチームのヘソに据えるところから組み上げて、最終的にファンタジスタのイスコとハメスをベンチに下げる決断に至っている。この、アンチェロッティとの発想の違いは、もちろん一つには当時のチームバランスの歪さにあったのだろう。前線にすでにスター選手を3枚も並べているチームの構造上、中盤にこれ以上のスター選手は配置出来ない。中盤に必要なのはバランスを取れる労働者で、当時の状況を考えれば当然とも言える判断だった。
ところが、ジダンはその後も「労働者優先」のチーム作りを加速させていく。出場機会を充分に与えられなかったハメスとベイルは、ジダンと仲違いするかたちでチームを出ていった。そしてチーム最大のスター選手であったロナウドも新たな挑戦のため、ユベントスへ移籍する。しかしチームから次々とスター選手が去っていったにもかかわらず、ファンタジスタのイスコは相変わらずベンチが定位置のままだ。代わりにジダンが重宝したのはルーカス・バスケスやフェデリコ・バルベルデといった労働者たちであった。