人の感情の微細な襞に、なんでこう深く分け入ることができるのか?

 読者をそんな感慨に誘うのが、大前粟生の小説だ。

 2016年に短編「彼女をバスタブにいれて燃やす」を発表してデビュー以来、『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』『おもろい以外いらんねん』など話題作を連発。若い世代を中心に広く共感を呼んできた。

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 このたび初の長編作品『きみだからさびしい』を刊行した大前さんに、人の感情の「鮮やかな掬い取り方」を教えてもらおう。

恋愛を扱った小説なら、いろんなものを放り込める気がした

だいたい好きってなんだよ。ここからが人間としての好き、ここからが友だちとしての好き、ここからが恋人としての好き。そんな風にはっきり分けられるもんじゃなくて、どの好きもグラデーションになってて境目なんてよくわからない。(『きみだからさびしい』)

 『きみだからさびしい』で大前さんは、恋愛といういわば王道のテーマに真っ向から挑んだ。

「人の心のうちの葛藤や悩み、モヤモヤしたところを描き出せたらいいなと前から思っていて、だったら恋愛のことを書いてみたらどうだろうと思い至りました。恋愛っていろんなかたちや段階があるし、その言葉から連想することも人によってかなり違う。恋愛を扱った小説なら、いろんなものを放り込めるかなという気がしたんです」

撮影:佐藤亘/文藝春秋 

すこしでも気持ちの折り合いがつくようになれば

 ただし、恋愛小説なるものはすでに世にたくさんある。同じことをしてもしょうがないとの気持ちもあった。

「そこからちょっとはみ出すというか、『こんなのもあり?』と思ってもらえる作品になればいいかなと考えました。そもそも恋愛には正解とか、こうしなければいけないっていう型があるわけじゃないですしね。どんなかたちであれ、人を好きになるという気持ちがそこにあればいい。小説の中で恋愛についてのいろんな考え方を出遭わせて、すこしでも気持ちの折り合いがつくようになればと思っていました」

 それで今作には、いろんな恋愛のかたちが出てくることに。なかでもひときわ目を惹くのが「ポリアモリー」と呼ばれる、当事者全員が合意の上で複数のパートナーと恋愛関係を持つライフスタイル。