なので作品を書き始めるときも、しっくりくる文章のリズムが思い浮かんだら、それに沿って書き進めていきます。途中でなんか違うなと思えばそれは捨てて、他のリズムを試して……と探していきます。そのうえでテーマとどうつなげていこうかと考える。意味はあとから結びつけていますね」
京都の街はどこも閑散としていた。雨が続いていっそう人影はなく、いつもこんな風だったらいいのに、と圭吾は思う。世界中に俺とあやめさんだけだったらどんなにいいだろうか。(『きみだからさびしい』)
ずいぶん稀有な書き方だ。そうした執筆方法は最初から? そもそもいつごろ、なぜ小説を書き始めたのだろう。
小説を書き始めた理由
「学生時代、就活に疲れて気分転換しようと思い、何かつくりたいな何がいいかなと考えたとき、いちばん初期費用がかからなさそうだったのが小説だった。それがきっかけです。小さいころから読書家だったというようなこともなくて、小説を読み始めたのは20歳くらいから。短期バイトが終わってちょっと時間ができて、何か趣味でも欲しいなと思って小説を手にとりました。最初はSFが多かったですね。
国語の作文なんかはわりと好きだったので、小説を書くことにあまり垣根を感じないまま始められました。生まれてからずっと日本語で話してきたし書いてきたんだから、何かしらできるんじゃないかと」
書いたものがコンクールで受賞し、デビューのきっかけを得ることとなるのだけれど、小説を生業にしようとあっさり決意できたのもすごい。たしか就活にも取り組んでいたはずだったのでは。
生活の一部として小説を書くことに向き合っていきたい
「小説を書くのは楽しかったので、これが仕事になるならいいなと素朴に思い、そのまま成り行きで現在のような状態になっています」
作品執筆のペースは速く、2月に『きみだからさびしい』が出たあとも、3月には児童書『まるみちゃんとうさぎくん』を刊行予定。その後の予定もすでにぎっしり詰まっている。それでも、自分のペースを見失うことはなさそう。京都在住で鴨川沿いを散歩する日課は欠かさない。
「晴れた日は1時間くらいぶらぶら歩きますよ。川面や鳥や植物、視界の中に何か動いているものがあると心地いいし調子もいいんです。小説を書くことはもちろん仕事と認識していますけど、文学や芸術のために体を壊してでもやるというようなスタンスはちょっと取れません。心身とも健康なまま、生活の一部として小説を書くことに向き合っていきたいです」