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「あの審判の顔を今でも鮮明に覚えています」

 中田はソウル五輪の話題になると、今でも険しい表情になる。

「私はあの審判の顔を今でも鮮明に覚えています。いや、生涯絶対に忘れない」

 2セットを先取された日本は、3セット目からローテーションを変えてペルーのリズムを崩し、2セットを奪い返した。

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五輪の舞台で選手として戦う中田久美氏(右から三番目。写真はロス五輪時) ©文藝春秋

 迎えたファイナルセット。序盤は、ブロック技術は世界一といわれた江上の縦のBクイックが面白いように決まり、後半は大林や廣紀江の攻撃が冴(さ)え、12−9までリードを広げる。だがその後、素人が見てもおかしいと思うようなペルーに甘いジャッジが続き、13−12まで追い上げられた。

 あと2点――。中田は江上にトスを上げ続けた。しかしAクイックを決めたはずが、2回続けてホールディングを取られてしまったのである。江上はそれまでにも同じような打ち方をしていた。なぜ今になってという主審に対する不信感が募り、チーム内に動揺が走る。

 五輪は、たとえわずかであっても乱れが起きて勝てるような舞台ではない。メダルが射程圏内にありながら、心の隙を突かれた日本はメダルを逃してしまった。