友人や同僚が同居する親との関係に悩んでいた時、「一度家を出てみたら?」とアドバイスしてしまうことはあるだろう。しかし、当人には、家を離れられない事情があるのかもしれない。

漫画家の菊池真理子さんは、幼い頃からアルコール依存症の父に悩まされてきたが、父の最期を看取るまで同じ家で生活した。その様子は、ノンフィクションコミック『酔うと化け物になる父がつらい』(秋田書店)で描かれている。

現在の菊池さんは、「親に苦しめられているなら、距離を取った方がいい」と話す。では、なぜ彼女は家を出なかったのだろうか。

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子どもだった私は家庭という環境に順応するしかなかった

漫画『酔うと化け物になる父がつらい』より (C)菊池真理子(秋田書店)2017

「父が生きている間は、いわゆる毒親とは無関係だと思っていました。自分の家が一般のおうちと違うという認識はあったけど、人に相談するようなことはなかったんですよね」

菊池さんの家庭では、毎日のように父が記憶をなくすまで酔って帰ってくるのが当たり前だった。週末には父の友人が家に集まり、徹夜マージャンの会場となったことで朝まで騒々しかった。

そんな状況に疲れ果てた母は、菊池さんが14歳の頃に自殺した。それからは妹と2人で、酔っぱらいの父の面倒を見るようになる。

漫画『酔うと化け物になる父がつらい』より (C)菊池真理子(秋田書店)2017

「母が他界した時に、うちは普通じゃないんだって思いましたね。でも、私がおかしな行動を取ると、『父子家庭の子だから変なんだ』って父や亡くなった母が責められてしまうから、周りの人に『うちはすごく暮らしにくい』って言えなかったんです」

父のお酒の飲み方が異常で、家庭の形が歪(いびつ)だったと確信したのは、父の死後。2017年に家族との関係を描いた『酔うと化け物になる父がつらい』を出版した後だったという。

「『酔うと化け物になる父がつらい』は、毒親の話をしようと思って描いたわけではないんです。別の漫画の取材でアルコール依存症セミナーに行った時に、精神科の先生がしていた『酒のせいで人間関係が壊れたことがあれば、治療の対象です』という話が、まさに父のことだったんです。そのことを出版社の担当さんに話したことがきっかけで、自分の家族について描くことが決まりました」