勧告が出ていたにもかかわらず国外退避しなかった理由は…
妻はキエフの自宅にいます。随時連絡が入っていますが、キエフではドニエプル川を挟んでロシア側の方ではかなり大きな爆破音が聞こえたり、煙が見えたりしているようです。戒厳令が敷かれており、基本的に屋外で撮影することは禁止されています。見つかれば、「軍事活動に当たる」として警察や軍部から拘束される可能性もあります。
――国外への退避勧告はこれまでもでていたと思います。なかなかできなかったのは何故でしょうか?
山本 外務省から連絡が来るのですが、配偶者以外の、配偶者の両親や親族には国外退避への力添えをもらうのが法律上、どうしても難しいと言われています。配偶者に関しては保護できるとは聞いているのですが、妻の親族のことなどを考えると、なかなか先へ進めない状況です。
――奥さんから両親と離れたくないと言われている?
山本 もちろんそれもあります。ただむしろ、妻の両親たちは高齢ということもあり、ウクライナという地から何があっても離れたくないんです。その意思を尊重すると、妻としても生まれた国を守りたい、両親も守りたいということになる。そうなると、私も運命をともにすると考えざるを得ないんです。
今は情報を集めながら、万が一住んでいるキエフの中心部になにかが起きた際には、着の身着のままでも移動できるように準備をしています。妻の両親のところへ行くなり、連れてくるなり、何かしらのことができる状況にしたいと言っています。
いま一番心配しているのは通信網の破壊・遮断とそこから始まるパニックですね。こうやって電話やネットで話ができるうちはみんな平静を保てると思いますが、通信手段がなくなって連絡が取れなくなった場合に、ウクライナ人たちがどう対応できるかがひとつの鍵になると思います。
在留邦人たちの決断はそれぞれ
――他の日本人たちはなぜ国内に残っているのでしょうか?
山本 私の周りにも残留邦人が3名ほどいますが、そのうち2人は現地の家族・親族がいるので残っています。もう1人は独身なんですが、私とほぼ同時期にウクライナに来ていて、もう20年をこの国で過ごしている。ウクライナに対する思い入れがあるので、この地に骨を埋めるつもりだと聞きました。
他にもお子さんがいる邦人家庭をいくつか知っていますが、1カ月ほど前に大使館から退避命令が出たときに国外に出られたようです。みなさん日本から来ている大手企業に勤めている方々なので、企業側からの指示で飛行機などで移動されていると思います。当時はまだ通常の便も飛んでいましたから。
みなさん「個人的には離れたくない」と仰いますね。でも、勤め先や日本人の親族・友人から勧められて、「心配をかけたくない」と。「心情的には離れたくはないけれど、離れざるを得ない」と聞いています。