文春オンライン

「切り取ってロシアに渡せば…」ウクライナ情勢が緊迫するなか、日本で過熱する“親ロシア発言”

「レフチェンコ事件」に学ぶ、ソ連時代から続くロシアの“偽情報工作”

2022/02/23
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 ロシアによるウクライナ侵攻は起こるのか。本稿を書いている今もなお、日を追うごとにキナ臭さを増していくが、それに比例して日本の言論空間でも不穏な空気が立ち込めている。一言で言えば、ロシアに批判的な言説に対する親ロシア的言説のカウンターだ。

司会者が「他国の領土を切り渡す」という解決法を提案

 先日、BSフジでの討論番組に出演した現役議員がウクライナに非がある主張を展開し、司会者に至っては問題の解決方法として、「例えばそこ(ドネツク・ルガンスク地方)を切り取ってロシアに渡す」を提案するという、ロシアに一方的に有利な現状変更を積極的に認めるとしかとれない発言があった。21世紀に「他国の領土を切り渡す」という解決法を公言したことに、SNS上では衝撃を持って受け止められた。

 また、朝日新聞デジタルでは記事に社内外の識者がコメントするコメントプラスという機能が存在するが、ウクライナ問題について識者によって見解が割れている。さらには、日本のマスコミが偽情報によりウクライナ危機を煽っているという言説まで登場するメディアもあり、ウクライナから遠く離れたこの日本でも、意図したものかそうでないかは不明だが、情報戦が過熱している。

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塹壕で警戒するウクライナ軍の兵士 ©️AFLO

世論を誘導しようとする両極端の報道

 ネットを覗いても両極端の世界が広がっている。ある一方は米欧の、ある一方はロシアの報道を取り上げ、双方が互いの主張の根拠は偽情報だと非難しあっている光景を目にする。偽情報によって世論を誘導しようとしているのだと。

 筆者としては、ウクライナ周辺にロシアが前例にない大兵力を展開しているのは衛星情報やオープンソースインテリジェンス(OSINT)等から疑いようのない事実であり、それが侵攻か軍事的恫喝による政治的成果を狙っているのは自明であると判断するが、ロシアを擁護する主張は少なくない。

 近年はフェイクニュースなど、偽情報についての報道を目にすることが多い。しかし、偽情報による工作活動はずっと以前から行われており、ここ最近で登場したものではない。本稿ではかつて明らかになった日本を舞台にした国際的な偽情報工作を振り返り、現在溢れる偽情報について考える一助としたい。