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「美内の漫画は面白いな。漫画家になるんか?」『ガラスの仮面』作者が、“漫画禁止令”を乗り越えデビューを果たすまで

『少女漫画家「家」の履歴書』より #1

source : 文春新書

genre : エンタメ, 読書, ライフスタイル, 働き方

note

「美内の漫画は面白いな。漫画家になるんか?」

 ただ、私があまりにも貸本を借りすぎたせいで、ツケが溜まってしまって。ある時、貸本屋のおばさんが「おたくのお嬢さん、これだけ借りました」と、母親に請求書を持ってきたんですよ。それでえらく怒られて、「漫画を読むのはやめなさい。じゃないとお小遣いはあげません」と、漫画禁止令が出てしまった。これは困ったぞ、と。

 どうやったら漫画が読めるだろうと考えて、だったら自分で描いて自分で読めばいいじゃないか。そう思ったのが、漫画を描き出すきっかけだったんです。

 初めて描いた作品は、いきなり三部作だったそう。描いた漫画は学校へ持って行き、友達に読んでもらった。学校に漫画本を持ち込むと没収される規則だったが、オリジナルの漫画原稿なら話は別。小学五年生の夏休みには自由課題に漫画を描いたノートを提出した。

 その時の担任の先生が理解のある方で、「美内の漫画は面白いな。漫画家になるんか?」と。「あ、そうか!」と思ったんですよ。漫画がこんなに好きなんだから、漫画家になればずっと読めるし描けるし。私は絶対漫画家になる、と心に決めた瞬間です。

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 両親からは、漫画を描くことについてずいぶん反対されました。こっそり隠れて描いていたんですけれど、そんな状態ではきちんとした投稿作品を仕上げることができない。高校に入ると同時に、母親に「高校2年の12月31日までにデビューするから、それまでなにも文句を言わないで描かせてほしい。デビューできなかったら就職なり進学なりを考えるから」と頼みました。

美内すずえさんがデビューした頃の「別冊マーガレット」

 母親からは「そういうことなら自由にしなさい。その代わりデビューできなかったら、翌日の1月1日から漫画家の道はきっぱり諦めなさい」と。結果、高校2年の夏に、集英社の「別冊マーガレット」に投稿作品が入選して、秋には掲載されることになり。長いこと漫画家生活を続けてきましたけど、この時が一番嬉しかったですね。

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