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月収2億円の超人気VTuberが“特許侵害”の警告を受けて…剛腕弁理士が出た“起死回生の賭け”とは?

著者は語る 『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』(南原詠 著)

『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』(南原詠 著)宝島社

 海堂尊、柚月裕子など、第一線で活躍するミステリー作家たちを輩出してきた『このミステリーがすごい!』大賞。その最新受賞作『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』が刊行され、発売2週間で5万部突破のヒットを記録している。

 タイトル通り、本作の主人公・大鳳未来の職業は弁理士。特許をはじめとする「知的財産権」の専門家だ。著者である南原詠さん自身も、弁理士の資格を持ち、一般企業で働く会社員だが、もともとの職種はエンジニアだったという。

「実は“知的財務は理系の裏の王道”と言われるくらい、エンジニアから弁理士になる人は多くて。技術を日本語の文章に落とし込むというのがメインの仕事なので、前提となる技術がわからないとキツイ、というのがその理由です。文系出身で弁理士の方もいらっしゃいますが、理工学部に社会人入学して、ある程度知識を入れたという方も多いですね」

 弁理士でありながら、「特許やぶり」と呼ばれる未来は、特許侵害の警告を受けた側に立ち、守ることを生業にしている。クライアントの利益のためならグレーゾーンに踏み込むことも厭わない未来が、今回、守ることになったのは、1カ月に2億円を稼ぐ超人気VTuber(CGキャラクタを使って活動するYouTuber)、天ノ川トリィだった。

「作品に流行を取り入れたいと思ったのですが、いま流行っていても、廃れちゃったらいやじゃないですか。話題性があって、将来も残りそうなものってなんだろう、と考えていたときに浮かんだのがVTuberでした。この小説を構想していた時点では、VTuberの8割が国産で、いわば日本が覇権を握っている状況。少し前のアニメーションと同じで、今後、日本が世界に打って出るコンテンツになるんじゃないかと思ったんです」

 所属事務所を相手取って起こされた知財紛争の争点は、トリィが用いる撮影システム。レーザーと5Gを使ったこのシステムが、ある会社の特許を侵害しているという。調査したかぎり旗色はかなり悪く、このままではトリィは活動停止に追い込まれてしまう。VTuberとして抜きんでた才能を持つトリィを守るため、未来は起死回生の賭けにでる――。相手の弱点を見抜き、搦手から事態を動かす、彼女の大胆さがこの作品の大きな魅力だ。

「未来はかなり破天荒な女性で、強引な手法もとるけれど、彼女なりの信念があって、その根本にあるのが『才能への憧憬』なんです。私自身もエンジニアから弁理士になり、発明する側から、しない側に移った。エンジニアとしてやっていけるんだったら、知財にはいかなかったはずで、ある意味では挫折なんです。だから自分にできないことをやり続けている人に対して羨望と尊敬がある。それは未来も同じで、自分にはない、作り出す才能を持つ人を守りたいというのが彼女の行動理念になっているんです」

南原詠さん

 エンジニアから弁理士、そして作家へ。ふたたび作り出す側にまわった南原さんだが、今後も会社員を続けながら小説を執筆していく予定だという。

「平日は会社から帰ってきてだいたい3時間くらい、土日は空いているかぎりずっと書く、というのをデビュー前から続けています。いくら時間をとってもぜんぜん進まないときもあるんですけど(笑)。会社員を辞めるつもりはもともとなくて……というのも、会社でいろいろ面白い情報が入ってくるんです。今後も弁理士という職業を活かし、特許権や商標権が絡むミステリーを書いていきたいです」

なんばらえい/1980年生まれ、東京都出身。東京工業大学大学院修士課程修了。元エンジニア。現在は企業内弁理士として勤務。第20回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、本作でデビュー。

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