見る人にエネルギーを感じてほしい
――この「聖観世音菩薩に捧げる花展」は、薬師寺に入られてからの一部始終がオフィシャルのYouTubeにアップされています。ですので、これを例に、作品を作る際のプロセスをお聞かせいただきたいのですが……。まずはどういったかたちで飾り付けていくか、というイメージを固めていくことから始まるのでしょうか。
志穂美 そうですね。イメージを固めるまでのアイデアは、素材や感情を見て感じたりとケース・バイ・ケースではあるのですが、この花会式に関しては、いろんなものを見たり、調べものをしたり、動き回ったりしているうちに、さまざまなことが頭に浮かんできて、連携してイメージができあがったという感じでした。たとえば……聖観世音菩薩さまの周りには、四天王が鎮座されているんですよ。
――菩薩さまや仏さまをガードする、持国天・増長天・広目天・多聞天という、もとはインドの守護神でしたっけ。
志穂美 この四天王はそれぞれ、古代中国の信仰と混ざり合って、青龍・朱雀・白虎・玄武に対応して、青・赤・白・黒という色が施されています。それならば、この色に沿った花を活けていこうという考えが浮かんできました。
――生花だけではなく、大きな流木などの素材も使われていますが、その意図は?
志穂美 流木や木の根っこって、唯一無二というか、同じ形のものがないんですよ。かつて植物として生きていたエネルギーが形に表れている。けれど、いわば一度植物としては死んでしまったものでもありますよね。それをこの空間でもう一度よみがえらせて、生命のエネルギーをみなさんに感じていただきたい、という気持ちがわいてきたんです。
――とくにお花の作品に関して、イメージを現実のものにする段階で、素材となる花木を集めるという問題も出てきますよね。
志穂美 もちろんです。流木は、当時津久井湖のダムに流れて来た流木の集積所があったので、実際に見て選んで、運んできて防虫剤などで何度も洗浄しました。お寺に虫を運ぶわけにはいきませんから。あとは、数ヶ月前から花のオーダーをかけて、竹や枝なども含めて6000本ほどをトラックで運びました。さらにはご厚意で紫色の数千本のカーネーションをご提供いただいたりしたので、すごい数になりましたね。
――それをほぼ1日で飾り付けなくてはいけなかったそうですが、事前に現場を確認しているといっても、怖くありませんでしたか?
志穂美 いくつかのパーツに関しては、こういう形にするということは決めていて、東京で倉庫を借りてリハーサルをしました。実際、改めて現場を見て変更する部分はあったのですが、スタッフと友人たち、併せて15人くらいの方々にサポートしてもらって、なんとか作り上げることができました。