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「俺みたいな年寄りにはもう、そんな話は来ないよ」

 5位に低迷し、成績不振から脱却できない中、9月9日には監督の山田久志を電撃解任。ヘッドコーチの佐々木恭介が監督代行を務める一方で、フロントは後任の選定に着手した。そこで落合博満とともに有力候補として報じられたのが、野村だった。

「ノムさん側もしっかり取材してくれ」

 デスクから私のもとにもそんな指示が飛んだ。スポーツ紙にとってプロ野球の新監督の人事は最重要ネタの1つである。朝から練習が行われている関東村グラウンドへとさらに通い詰める日々が始まった。

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 同様の指令が下ったのだろう。現場にはスポーツ各紙の記者も来ていた。野村に「中日からオファーがあったら、どうしますか」と尋ねると、決まってこう返された。

「そんなもん、100%あるわけないだろう。プロ野球界は若い者が好き、新しいものが好きなんだ。俺みたいな年寄りにはもう、そんな話は来ないよ」

 その行間からは「指揮官としての実力なら、まだまだ若い者には絶対に負けない」という意地がほとばしっているようにも思えた。

野村克也氏 ©文藝春秋

監督代行からの突然の連絡

 ある日の練習中のことだ。

 野村とともに練習を見守る梅沢(編集部注:シダックス と東北楽天ゴールデンイーグルスで野村克也監督の専属マネジャーを務めた人物)の携帯が鳴った。

 梅沢は液晶画面を見ながら思った。

 知らない番号だ。誰だろう。

 名前を聞いて、梅沢は腰が抜けた。

「中日ドラゴンズの佐々木恭介です。野村監督におつなぎいただけますか」

 監督代行からの突然の連絡。梅沢の心拍数が一気に上がった。報道陣には気づかれないように、野村へそっと電話を渡した。

「監督、ドラゴンズの佐々木恭介さんからお電話です」

 次の瞬間、野村の声が裏返った。

「え~っ!?」

 この時の様子を、梅沢は振り返る。

「本気で驚いていました。『もしかして!?』と思ったんじゃないでしょうか。記者の方に『100%ない』と言った直後でしたからね。用件は、監督人事とは全く別の話だったんですけど……」

 驚愕する野村の姿を見て、梅沢は考えた。

 やっぱり未練があるのかな。

 本当はプロの監督、やりたいんだろうな。