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〈初代ソアラ、レビンを現代に蘇らせる〉リーダーは83歳の“へんなじじい”…レストア職人集団「新明工業」のヤバい技術力に密着した

KINTO旧車プロジェクト #3

2022/04/07
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 KINTOが「旧車レンタカー」という夢のあるプロジェクトを実現するにあたって、ハードルとなったのは「レストアのノウハウをどこから確保するか」という問題だった。

 レストア作業に名乗りを上げたのは、トヨタ自動車の電動パワトレ開発統括部の面々と、豊田市の「新明工業」である。60年以上にわたってトヨタ自動車の車両整備や車両開発のサポートを担当し、レストアにおいてもトヨタ博物館の展示車両を数多く担当するなど、豊かな実績を誇る。

 KINTOの旧車事業を下支えする職人たちの技に迫るべく、我々は前回のトヨタ自動車に続き、新明工業の工場を訪れた。(全3回の3回目/#1#2を読む)

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新明工業の顧問・石川氏。明るいキャラクターだが車両に向ける目は真剣だ

「どうも、へんなじじいです」と手渡された名刺には、肩書き部分に“へんな じじい”という記載がある。面食らっている筆者に、「きみ、でっかいなぁ!」と大仰なリアクションを見せる。

 奇をてらったこの名刺は、トヨタ自動車のある人物に触発されて作ったものだという。2017年から2020年まで副社長を務めた河合満氏から、石川氏が名刺を受け取った際、そこには“おやじ”という肩書きがあった。役職の重々しさを感じさせない肩書きに、石川氏は「俺も“じじい”にしよう」と思い至り、高齢ながら会社に居続ける自身を“へんな じじい”と表現した。

 簡単な打ち合わせを行いながら、写真掲載の是非について尋ねると、「カメラ向けられるとポーズとってしまうけども」と言い、コミカルな立ち姿を披露。ものの数分で、この「へんなじじい」が職場のムードメーカーかつ精神的支柱であることが見て取れた。

20年前の車両は「新車みたいなもの」

 工場に出ると、KINTOで貸し出す車両のほかにも珍しい旧車がヤードに並び、半世紀ほど時間を巻き戻したかのような印象を受ける。1台は20年ほど前のモデルだったが、技術部の部長は「あれはもう新車みたいなものですね」と冗談めかして言う。

キャブ車の整備もお手のものである

 この時作業を担当していたのは、キャリア30年以上の1級整備士。しかし新明工業でレストアを担当しはじめたのは最近のことだという。旧車を扱うことになって苦労しているのでは、と聞くと「自分は古い車の方が慣れていますし、こっちの方がむしろやりやすいですね」と頼もしい答えが返ってくる。