石原慎太郎氏は「政治家じゃなくて文人だ」。元衆議院議員の亀井静香氏による「三途の川で待ってろよ」を一部公開します。(「文藝春秋」2022年4月号より)

◆◆◆

ディーゼル排ガス規制、羽田空港…

 石原が死んで、もう何日になるのかな。いまも思い出すたびに、ため息が出るよ。さびしいなあ。

 彼は宇宙からやってきた「異星人」のような男だった。歴史をさかのぼってみても、石原のような業績を残した人物は他に思い当たらない。

ADVERTISEMENT

 彼は小説家や文化人という枠には収まらない。日本の文化を代表していた男だよ。俺からすれば「文人」という表現がふさわしいな。文明を見とおす鋭い感性を持った、当代の最高の文人だったと思うね。

 だから石原は政治家ではない。文人としての感覚を持ちつつ、政治の場に顔を出した。文人として一種の遊び感覚だったんじゃないのかな。

石原慎太郎氏 ©文藝春秋

 政治というのは、ドロドロした人間関係という沼の中に、足と手を深く突っ込んで、利害調整をする仕事だ。そんなこと湘南の太陽ボーイにはできないよ。それに政治の世界では、ときに人を裏切ることが美徳にすらなる。でも石原は裏切ることもできない。それがあいつの美点でもあるけどな。

 石原は政治家ではないけど、文人としての着想や正義感を政治の場に持ちこんで、思い切りのよいことをスパーンとやって見せた。

 その一つがディーゼル車の排ガス規制ですよ。都知事へ就任した直後の1999年、国の役人が渋っているのを尻目に、「東京から日本を変える」とディーゼル車の規制に踏み切った。ディーゼル車は物流を担っているトラックが多かったから、産業人の感覚であれば、そんな規制はできませんよ。

 文人だからこそ、自然が破壊されていることに対して、センシティブ(敏感)になったのではないかな。いま東京の空が青いのは、彼のおかげです。

 もう一つ、いま羽田空港が本格的な国際空港になっているけど、これも彼のおかげだ。もし石原がいなかったら実現していないよ。