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水をかけられそうになったことも

 お互い相手の機嫌を取るようなことはしない性格だから、ぶつかることは何度もあった。水をかけられそうになったこともあったよ。

「お前が書いた処女作には、障子に男のシンボルを突っ込むという、当時は誰も小説の題材にしたことのない描写がある。あの『太陽の季節』は当時の若者たちを象徴する、ある意味では時代を象徴した衝撃的な文学作品だったと俺も思う。しかし、あとはなんてことねえな」

 俺がこう言ったら、「何だと!」と石原が怒って、水の入ったコップを持って立ち上がったから、このときは俺もギョッとなったよ。

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 そんなこと言われたら、そりゃ怒るよな。それに俺は、さっき言ったように暗い小説ばかり読んでいたから、『太陽の季節』もろくに読んでいなかったし、他の作品なんて全然、知らないんだよ(笑)。

亀井静香氏

 まあ、そんな酒席の放言ばかりではなくて、政治思想の違いから激論を戦わせたことも少なくなかった。

 たとえば天皇制では意見が大きく違った。俺は、日本は天皇の存在があってはじめて、国家として存在していると考えている。でも石原の場合は、俺から見ると西欧の君主制に近いイメージを抱いていたように感じるな。

 このように相いれない点があれば、お互い妥協しないから、火花が散るような議論になった。いってみれば真剣で立ち合っているようなものだ。木刀じゃない。お互い真剣で斬るか、斬られるかという議論を何度もしたものだ。