「自衛官」と聞くと、国を守るためにさまざまな環境で奮闘する姿を想像する人が多いだろう。しかし、そうした姿はいわば「オン」状態の自衛官たちの姿であり、ビジネスパーソンが仕事場と自宅で言葉遣いや行動を切り替えるように、自衛官たちにも「オフ」の姿がある。
そう語るのは、元陸上自衛官のぱやぱやくん。ここでは、同氏が愛とユーモアたっぷりに、自衛隊ライフを振り返った『陸上自衛隊ますらお日記』(KADOKAWA)の一部を抜粋。自衛隊に必ずいるという「鬼教官」の素顔に迫る。(全2回の1回目/後編を読む)
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ますらお(編集部注:益荒男。強く堂々とした男性という意。ここでは、主に自衛官を指す)は、ただの強い人ではありません。強い覚悟を決めた人達です。しかし、どんなに立派な覚悟があっても、スペランカーのように少しの段差で死ぬようでは話になりません。実際問題として、「俺はレンジャーになる」と息巻いていた新隊員が、トラックの荷台から降りるときに足を滑らせ転がり落ちて大怪我をし、退職を余儀なくされることもあります。
では、「ますらおの卵」から立派な「成虫のますらお」になるために、一体どんな訓練をしているのか、その謎に迫っていきましょう。
鬼の姿はあくまでも仮面! 勇気を出してメタモルフォーゼ
まず、自衛隊の訓練と聞くと、皆さん想像するのは「鬼教官」ではないでしょうか?
ハリウッドの軍隊映画でも鬼教官は物語のいいアクセントとして登場します。『愛と青春の旅だち』で士官候補生をしごくフォーリー軍曹、『フルメタル・ジャケット』で新兵をしごくハートマン先任軍曹など、映画を見て「軍隊=鬼教官」のイメージがついているのではないかと思います。
イメージの通り、自衛隊には必ず「鬼教官」がいます。しかし、彼らがなぜ鬼教官になるかというと、サディスティックな性格で「新隊員をしごくのが好き」という理由からではありません。新隊員や幹部候補生に、「自衛官としての規律・心構え」を教える必要があるからです。小銃や兵器を取り扱う彼らに緊張感を持たせ、チームとして一体感を抱かせるために厳しく接する必要があるのです。