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「俺が震えているのは武者振るいだ!」本当は教官だって緊張する

 ただ鬼教官と言えど、常に厳しいわけではありません。彼らが厳しくするパターンは大抵決まっています。よくあるケースとしては、新隊員や候補生が「手を抜いている」「一生懸命やっていない」といった状態に陥っている際に、カツを入れます。というのも、時には教官が鬼にならないと怪我や事故にも繋がるので、彼らは隊員に厳しく接する必要があるのです。

 一方で、陸上自衛隊に長年いると、段々そういった大人の事情が分かるようになります。入隊して数年後に「レンジャー課程」や「陸曹課程」などに進んだ際に「あ~、やっぱりこのタイミングでくるよね」となります。私の同期は、新隊員教育の区隊長を担任した後に幹部レンジャー課程に行ったので、「教官が締め付けてくるタイミングが分かるから、キツいというよりもだるかった」と組織慣れした発言をしていました。

鬼教官達はあくまで演じているだけ

 ただ、陸上自衛隊にいる限り、時がくれば自分も鬼教官役をやらなければいけません。

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 そのときに「今の自分に鬼教官役なんてできない」と焦って必死に勉強して、学生達から舐められないように鬼教官のキャラクターを自ら作り上げるのです。そして、鬼教官の役目が終わって一息ついたと思ったら、今度はまた学生の立場に戻り、別の鬼教官から熱烈指導を受けることもあります。鬼教官と学生はまるで鬼ごっこのように交代するので、自衛隊歴が長い人は、「あの鬼教官は俺が新隊員教育で厳しく鍛えた教え子なんだ……」というなんとも切ない一幕が誕生することもありがちです。

 なお、鬼教官達はあくまで演じているだけなので本当は優しい人が多いです。自衛隊も厳しい人を教官に設定するのではなく、勤務態度が良く、ある程度人柄が良いますらおを選んで教官に指定します。彼らは日常から怒り狂っているわけではないので、中には「俺が教官なんてできるのだろうか……?」という戸惑いを感じながら、一生懸命に鬼教官を演じている人もいます。教官は教官で緊張する場面も多く、大変なのです。