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その鬼教官は一人で晩酌をしていましたが、しばらくすると携帯電話を取り出し「もちもち~、ゆいたんでちゅか? パパでちゅよ。元気でちゅか?」と通話を始めました。そこには鬼教官の姿はなく、単身赴任中のお父さんが娘と話している姿だけがあり、「ああ、この優しいパパの顔が鬼教官の本当の顔なんだ」と私は悟りました。そして思ったのです。「ゆいたんのパパに隕石を落とすのはよそう」と。
そのまましばらく娘と話している様子を見ていると、教官が急に私達のほうを振り向き、目が合いました。彼は一瞬驚いた顔をして、お互いになんとも気まずい雰囲気になり、私達は逃げるように店を後にしました。
「お前は昨日何も見なかった。聞かなかった。いいな」
翌日の朝の点呼が終わると、鬼教官が「おい」と言って私のことを指さしました。「お前は残れ」と低い声で言われ、私一人残されて、何を言われるんだろうとビクビクしていると「お前は昨日何も見なかった。聞かなかった。いいな」と言われました。その顔は、昨日のゆいたんのパパの顔ではなく、いつもの鬼教官の顔でした。しかし、私にはその日から鬼教官ではなく「ゆいたんのパパ」が一生懸命に頑張っているように見えるようになりました。
このように、鬼教官とはあくまでも演じているだけであり、本当は優しい人が多いのです。
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