「益荒男=ますらお」とは「強く堂々とした、立派な男子」という意味を持つ言葉として、中世より、強い武士を表す際などに使われてきた。ただし、現代の日本では合戦が行われるような機会もなく、ますらおという言葉は、もはや死語に近いものになっている。

 しかし、元陸上自衛官のぱやぱやくんによると、自衛隊では、現在もますらおという言葉が日常的に使われ、“強い男”を求める自衛官が数多く存在するという。ここでは、同氏がますらお、つまり、自衛官だった当時を振り返った著書『陸上自衛隊ますらお日記』(KADOKAWA)の一部を抜粋。ますらお達の訓練の様子、知られざる赴任の仕組みについて紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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 訓練の一環として、実戦形式の対抗演習を行うことがあります。これは、各部隊が敵味方に分かれ、「バトラー」と呼ばれる赤外線センサー装置を使用して戦う演習です。バトラーには送信機と受信機があり、送信機を小銃などの武器に装着し、受信機を体や車両に装備させることによって損害状況が可視化できます。

戦闘センスがないますらおはすぐに死ぬ

 この演習で分かるのは「戦闘センス」です。普段の訓練や演習では戦死判定が出ませんが、バトラーを装着すると判定が出るので戦いにおける生存率が分かります。そのため、戦闘センスがない隊員はあっけなく戦死判定が出てしまいます。

写真はイメージ ©iStock.com

 この戦闘センスは、「継続年数が長い隊員にある」「階級が高ければ高いほどある」というわけではありません。若手隊員でも抜群のセンスがある人はいますし、多くの経験があるベテランの陸曹長でもまったくセンスがない人もいます。

 私の同期にも、圧倒的に強いますらおがいました。彼らの特徴はバイタリティがある、頭が柔らかい、ギャンブルに強いなど「日常よりも戦場の混沌で活躍するタイプ」といえます。この経験から、「平時と有事では活躍する人種が違う」と私は思うようになりました。ロボットアニメの主人公も平時では問題児が多いのと同じ理論ですね。

俺が死んだらお前がやれ!

 バトラー演習の際、指揮官が戦死判定もしくは行動不能判定になると指揮権が継承されます。そのため、小隊では序列の低い3曹が小隊長になったり、入隊数年の陸士長が小隊の指揮を執ったりすることもあります。

 一般企業にたとえるのであれば、入社2~3年の社員に「課長、主任、他の社員が倒れたから明日から課長やってね」というようなものです。一見無理難題のように見えますが、有事の際は速やかに指揮権の継承を行わないと「おい! 誰が指揮官なんだ!」という状況になり、組織が機能しなくなってしまうので、この演習で訓練しておくのです。