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「自分が好きなアニメやゲームに出る声優になりたい」という動機は失敗の元…“声優になりたい”人が声優専門学校に通ってはならない“納得の理由”

『埋もれない声優になる』より #2

2022/03/28
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学校に通う価値があるケース

 一方で、養成所なり専門学校なり、学校に通う価値があるなと思うケースもあります。ここでも2つの例を紹介します。

 1つ目の例は、本人がそこで何を学びたいかしっかり見定めて、学校や先生を上手く利用する心構えがあるケースです。

 内田彩さん(編集部注:養成所在学中に『おでんくん』でデビューし、その後『ラブライブ!』のμ'sの一員としてブレイクした人気声優)がいい例ですが、彼女には、憧れていた緒方恵美さんに師事したいという狙いが元々あったようです。実際緒方さんには随分かわいがられたようですから、きちんと狙い通り学校に通うことを上手く利用できたのだと思います。

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 目的をもって学校を選び、学ぶということはプロの声優でもそれぞれやっていることです。それこそ当の緒方恵美さんもまた、殺陣の必要を感じた際は時間を作って自費で学びに通われたそうです。「学校に行けば声優になれるかも」といった受け身の態度ではダメですが、彼女たちのように積極的、主体的に学校や先生という環境を利用したいという狙いがあるのであれば、授業料や時間などのコストとのバランスにもよりますが意味があると思います。

 そういう意味では、たとえば青二塾(編集部注:声優、俳優、ナレーターをはじめ声に関するすべての業務を請け負う青二プロダクションが運営する養成所)などでは芝居や殺陣や日舞、ダンスなど役者に必要な素養をまとめて教えていますから、そういったものを一通り学びたいという狙いがあるのでしたらメリットはあると思います(その代わりアフレコ実習などを除くとアニメ声優に特化した授業は限られています)。

声優になることを目指さない人の社会復帰に

 もう1つの例は、声優になることを目指さないケースです。

 僕が養成所の講師をしていたのはもう20年近く前のことですので、今とは状況が変わっているかもしれませんが、入学した40人のうち半分くらいが本気で声優になることを目指す人たちで、残り半分のうち何割かはこの前までいわゆるひきこもりだったという若い人たちでした。

 中学校や高校などでいじめられて学校に行けなくなってしまい、社会復帰するためにはどうすればいいか本人も親御さんも悩んでいる、というような状況にある人たちです。彼ら彼女らは自分が好きなアニメやゲームを通じて声優という職業を知り、自分が好きなものを同じように好きな人たちとであれば仲良くなれて、社会復帰のための足掛かりになるのではないか、と考えて養成所に来たというのです。