まさに、「トークン」の状態です。男性でも退職している人はいるはずなのに、少人数の女性の中の一人が退職することで、その女性の出来事を他の女性にも当てはめられてしまったということです。
自衛隊は、少数派が「女性」であることから生じる「ジェンダー・ステレオタイプ」に注意しなければなりません。男性が「超マジョリティ」というような状況が長く続いてきた自衛隊組織に女性が少しずつ増え始めた時期に、幹部自衛官としてキャリアを歩んできた女性たちは、周囲から「超少数の女性」に対する特別な視線を感じることになります。
「上の年代の方ほど、部隊で女性と一緒に仕事したことがないとか、教育課程の同期に女性がいなかったので、無意識に差別的発言をしているというところがあるかもしれません。妊娠、出産を機に退職する女性がいることを例にあげて、女性を教育課程に入れることは非効率的だとか、これまで女性を勤務させたことがないポストには性別を理由に無理だと判断するような男性がいた時代もかつてはありました」
女性であることで問題が生じるわけではないのに、これまで男性だけで進めてきた組織に女性が加わることへの違和感、戸惑いが職場の中に生じ、女性に対する差別的な見方や、女性を特別扱いする対応につながってしまいます。
ジェンダー・バイアス
このような現実は、少数派である女性に対するステレオタイプな思い込み「バイアス」から生じていることがほとんどです。
バイアスは日本語にすると「偏見」です。偏見というとネガティブなイメージを抱きがちですが、「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」といわれるように、人が大量の情報を処理する際に、情報を一から処理していると時間がかかって非効率なので、これまでの経験則に照らして効率的に情報を処理しようとする無意識のメカニズムが働きます。
「女性」、「子育て」といった隊員の属性をみて、その平均値や自身が持っているイメージを前提にしてその人を理解しようとすることで、意図する/しないにかかわらずバイアスが入り込んでしまいます。
男女というジェンダー・バイアスは、属性を外部から判断しやすい上に、「男性」、「女性」を意識して生活を送ることが多いことから、気を付けていてもバイアスが入り込んでしまうものです。
女性自衛官は、自身の自衛官としての役割を十分理解しており、「女性のレッテルを貼らないでほしい」と考えていますが、色濃い男性社会であった自衛隊の中で、自分たちが異質なものとしてみられた経験をしています。典型的なのが、女性に対するバイアスから、男性と異なる取り扱いを受けたという経験です。