「例えば、昇任試験や面接のときに、女の人にだけ家庭に何か問題ないですか、と聞いていたことがありました。特に昇任試験では、例えば昇任するに当たってそれなりの役職と責任が求められるときに、家庭で何か問題はありませんか、子どもとの関係で家庭でも上手くやっていけますか、と聞かれたりします。
男性にも同じ質問をしてくださいって思いました。女性にだけその質問をするということは、女性は仕事も家庭も両方を担わなくていけないということを組織的に認めているということになって、そういう女性に対する無意識の偏見は自衛隊にはまだ残っていると思います」
「新しい職場に異動し、上司と面談をしたとき、当時の上司に『あなたのお子さんは小学生で、あなたはお母さんなんだから、我々男性陣と違って、ご家庭を優先してください。でも仕事もきちんとやってもらいます』と言われました。一見とても理解ある上司の温かい言葉に聞こえますが、私は正直にいって違和感を覚えました。結婚して子どものいる人には男女問わずこのような言葉をかけるべきだと思いました。お母さんだからどうこうではないと思いました」
個人が変われば組織が変わる
振り返ってみて、自身のジェンダー・バイアスに気が付いた女性もいます。
「今だから反省するのですが、子どもがいるので休みますという男性隊員がいたんです。奥さんは自衛官ではないのですが共働きでした。いつも夫の方ばかり休みを取っているように見受けられたので、『なぜいつもあなたが休みを取るの?』と、夫婦で同じくらいの割合で休みを取れないのかなという認識のつもりでその男性隊員には言ったのです。
でも、もしかしたら根底では、その奥さんが何もやっていないと私は思い込んでいたのかもしれないですね。無意識に、母親が子育てするという意識があるので、そういうのが、キャリアを積み上げていくのを阻害している部分があるのかもしれません」
自衛隊が長い間、男性主体の組織であったことから、女性自衛官に対する特別な視線は現在でも少なからず存在しているようです。しかし、施策の推進や時代の流れとともに、女性自衛官を受け入れる環境が整い始めていることを感じている人も多くなってきました。
「先輩で悔しい思いをした方は多分いるんだろうと思うのですが、後輩を見ると、子どもがいてもバリバリとキャリアを積んでいる人もいるので、自衛隊も変わってきているのだなと感じています。
一般的にも女性の管理職の割合を上げていこうという話もよく言われているので、そういう世間の流れを自衛隊も組織として考えて取り組みが進められてきていることと、女性自身も高い階級の方もいるので、そういう方がいろいろと働きかけて、今までの男性中心の文化を変えてきているのだろうなとは思います」
組織からの働きかけによって個人の意識が変わっていき、個人が変われば組織が変わっていくという相互作用が、自衛隊の中でも起こり始めているようです。
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