訓令に「隊員は、何時でも職務に従事することのできる態勢になければならない」と定められているように、自衛官には不測の事態での緊急対応が“職務”として求められる。それだけに、男女とも仕事と子育ての両立は簡単ではないと想像されるが、いったいどのようにワークライフバランスを保っているのだろうか。

 ここでは、防衛省職員の上野友子氏と法政大学キャリアデザイン学部教授の武石恵美子氏が自衛官達のキャリアを調査した共著『女性自衛官 キャリア、自分らしさと任務遂行』(光文社新書)の一部を抜粋。子育て中の女性幹部自衛官たちに行った聞き取りを元に、彼女らの仕事についての考えに迫る。(全2回の2回目/前編を読む)

※記事中の「」はインタビューに答える女性自衛官たちの語り

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即応態勢の要求

 まず、仕事と子育ての両立を考える前提として、両立を難しくしている自衛官の仕事の特徴を確認しておきましょう。

 いつ国難ともいえる状況が起こるかわからない中で、自衛官は緊急事態への「即応態勢」、すなわち「いざ」というときに仕事を優先することが求められます。例えば地震が発生すれば、自衛官にはすぐに現場に駆け付けるという要請が発生する可能性があるわけです。

 幹部自衛官として決断する立場ともなれば、不測の事態への対応の緊急性はより高くなります。この不測の事態に対して、24時間対応が可能であることが大前提となっているところに、自衛官の任務の特徴があります。

「隊員は、何時でも職務に従事することのできる態勢になければならない」と訓令に定められており、自衛官には「超過勤務」という概念が基本的にはありません。「何時でも」とは、突発的な事態への対応ということで、そうした事態が発生するのは他の仕事でも同様だと思いますが、自衛官の任務は国防、時には人の命に直結する、この点に特徴があります。女性自衛官もこのことを念頭に置いています。

「私は、子どもに『何かあったらママもパパもいなくなるから』と言っています。自衛官である以上、そういう部分は絶対選べる仕事じゃない、私だけ生き残りますとか言えないと思っています。平和であってほしいという気持ちもありますけど、何か起こったら家を出ていかなくてはいけないということは思っていますね。『危険を顧みず』と宣誓した以上は」

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「何かあったら家には帰れないということを常に意識していますし、それは子どもたちにもきちんと言っています。また、命を人のために投げ出さなくてはいけないということも自分の中で覚悟しているところはあります」