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離職が頭をよぎるとき

 このように、自衛官の任務は、不測の事態といつも隣り合わせといってよいでしょう。不測の事態が起きたときこそ、迅速な対応を国民から最も求められているときなのだということを誰よりも強く認識しているのもまた自衛官なのです。

 自衛官という仕事に誇りを持っている一方で、子どもにとっての母親は自分だけ、唯一無二の存在です。幹部自衛官としての責任があるのと同時に母親である彼女たちの、双方の役割の間で強く葛藤する声は、どれだけ紹介してもし尽くせないくらいの発言がありました。

 まず、思うように子育てができないことから、「辞めようか」という選択が頭をよぎる瞬間があります。

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「出産後は、子どもの世話に専念したくて自衛隊を辞めたいと思ったこともあります。保育園に預けるときや発熱してお迎えに行くたびに心が痛み、『私は何をやっているのだろうか』と自問自答していました。

 でも、そこで踏みとどまったのは、『しんどいことや上手くいかないことは今だけなんだと思えば、気持ちが前向きになる』と先輩に言われたからです。幹部自衛官として仕事の責任が大きくなるにつれ育児との両立が困難になりましたが、家族に協力してもらいなんとか乗り越えられました。

 双方の親は遠方に住んでいたのですが、私の姉が近くに住んでいたので本当に助かりました。また、部隊の上司や同僚のご家族にも助けてもらいました」

「毎朝、小さい子どもに足にしがみつかれて『行かないで~』と泣かれた時期が激務の時期と重なっていて、さすがに私は何をやっているのだろうと、とても空しくなったことがあります。

 当時、一緒に働いている周りの男性は残業が夜遅くに及ぶと『もう帰らなくていいや』と職場に泊まっていたのです。でも、私はどんなに夜遅くなっても絶対に家に帰ろうと決めていて、電車がない時間帯に仕事が終わったとしても、深夜にはタクシーで帰り、朝は子どもを保育園へ送るようにしていたのですが、職場の男性陣が家庭を全然気にせずに仕事をしている姿を見て、うらやましさと空しさを感じた時期があったのです。

 ただ、私の性格的に、担当している仕事を途中で投げ出すのが嫌でしたので、この担当が終わったら辞めようかな、と思っていて。その時期、仕事の態度がとても投げやりになってしまい、上司に『お前の担当している施策を多くの隊員が待っているんだ。お前の肩にかかっているんだぞ』と言われたときに、はっとしたんですよね」