離職が視野に入ったときに、子育てを助けてくれた人の存在や、仕事への向き合い方を改めて考えさせてくれた上司の存在の重要性が確認できます。その基礎に、女性自衛官が一時的な感情や状況に流されず、先々のキャリアを見据えることで、今の自分の課題に対処しようとする明確なキャリア意識があったといえるでしょう。
任務と母親役割との葛藤
これらの発言にあるように、女性自衛官は日々、任務と母親役割との間で葛藤を抱えながらキャリアを積んできました。一方で、子育てとの葛藤とは距離を置いている男性自衛官の姿が身近にあり、自らと比べてしまうことで、自身の立ち位置への疑問が出てくる時期があったようです。
「昔は男性がうらやましいと思いました。私は子どもを育てていると、何をするにしてもまず子どものことを考えてから、というのがありましたが、男の人はまず仕事のことや自分のスキルのことを考えられるのでいいよねって、そのときは思っていました。
若い頃はきつい仕事を担当した方が自分の勉強になると思っていましたので。今は仕事の仕方も覚えて、どこでもやっていけそうな気がしますけど、子育て真っ最中のときは、スキルが一番だと思っていたから、買ってでも苦労してやってみたい、男の人はそれができるからいいな、と思っていました」
子育てによってどうしても仕事に割ける時間が少なくなり、それが自分にとって仕事を覚える重要な時期と重なったとしたら、その葛藤は大きなものがあります。
先の発言をした女性は「子どもを持ちながら仕事をする上で大切な心構えは仕事と子育てのバランス。子育てばかりに特化してもだめだし、子育てをしながらも仕事のことも考えるというバランスがとれる強い心が必要ですね」と続けました。
仕事と子育ての両者のバランスを、誰かに流されない強い心を持って、自分の中で調整しているようです。そうはいっても、仕事と子育ての間では、いつも不安を抱えているという現実があります。
「私、仕事で悩むことはほとんどないんです。悩むのはやはり家族のことなんですよね。子どもを育てながら仕事をどうやっていくかということは悩みました。子どもが、『お母さん授業参観に全然来てくれない』と言ったとしても、『でも、休み取れないな』となる。当時の職場は男性ばかりだったし、学校行事以外にも子どもが病気になったら休みをいただかないといけないので、参観日で休むとはとてもじゃないけど言えなくて。今は社会も変わってきたので言える環境が整ってきていますが、昔は悩みました」