『家政婦は見た!』がスタート
ただし、第2弾以降、設定はそのまま引き継ぐが、主人公の名を河野信子から石崎秋子に変えることで一線を画すことにした。シリーズのタイトルもズバリ、『家政婦は見た!』としてスタートした。
当時、土ワイはもちろん、ほかの2時間ドラマ枠でも女性が主人公のシリーズは極めて珍しく、同じ土ワイの中で、夏樹静子原作・十朱幸代主演の『女弁護士・朝吹里矢子』があるぐらいだった。しかも、こちらは単なる家政婦。刑事もの、裁判ものと違って、何ら権力を持っていない。さらに、シリーズ化が決まったとたんに急に期待をかけられて、毎回30分拡大の2時間半。
そこでシリーズ化に当たっては、社会情勢をタイムリーに取り入れ、リアリズムを追求する方針にした。脚本家の柴英三郎の手元には、大映テレビのスタッフが集めた膨大な資料がそのつど届けられた。柴に言わせれば「市原さんともよくお話ししたんですけど、これは解決できない、解決のないドラマ。家政婦は暴くだけなんです。暴かれた相手は翌日からまた不敵な顔をして、元と同じ生活を送る。タイトルの通り、見るドラマで、裁くドラマではないんですよ」つまり、ドラマの形を借りた社会派ドキュメント、ありのままを世に晒すのを狙いとした。
家政婦は視聴者を代表してスキャンダルを見る。彼女の目を通してドラマが進行していくので、自ずと主役の市原の出番がとても多くなる。柴は全体の9割方を彼女の登場シーンにしたという。
一流の役者は劇中のキャラクターを自分のほうに引き寄せる。市原悦子は嫌われ役だった主人公をどんどん自分の中に取り込んで、途中から正義の味方に変えていった。シリーズ4作目になると、エリートの前で啖呵を切るおなじみのスタイルが定着した。プロデューサーの塙は、撮影のたび市原から「私の演技、エラそうに見えてなかった?」と問われ続けたという。
果たして、市原悦子=家政婦・石崎秋子は、渥美清演じる『男はつらいよ』の寅さんと比較されるまでにポピュラーな存在になった。数多の亜流ドラマを生み、主人公の属する大沢家政婦紹介所は本当にあるかのように思われ、ファンの間ではロケ地を手がかりに所在地推理まで行われるほどであった。
松本清張の原作を離れ、初のオリジナルとなったシリーズ2作目『家政婦は見た!エリート家庭の浮気の秘密みだれて…』(84年10月13日放送)は、土ワイの歴代最高視聴率30・9%を記録している。これは関東での土ワイ唯一の30%越えであり、2時間ドラマの記録として未だに破られていない。
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