無意識だからたちが悪かった…姑から受けた、嫁いびり
――自分が嫌だった思い出があるから、やらないようにしようと?
上沼 おっしゃる通りです。それに甲斐性あるからね、私。だからそういうことができるんですよ。
私は結構やられましたので、あかんねん、やられてるから。「こうするとこういう誤解を招く」ってところまで読んじゃうんですよ。私のお義母さんはもう純粋で、いびる気すらなかったと思う。だからたちが悪かった。
――ああ、無意識な行動には怒りづらいですね……。
上沼 無意識なんです。「恵美子さん送らなくていいから。しんちゃんは私が送る」って、新婚時代夫を見送らせてもらったこともない。「しんちゃん、今日も遅くなるの?」「ああ、そうだな」って、この会話の中に私はいないんですよ。
ライバル意識って急に生まれてくるんですわ。夜、車の音がしたら、たとえ夜中の11時でも姑が「しんちゃんお疲れさま」って玄関に出てくるんです。口に赤い紅差して。口紅差して「お帰りなさい」なんて今まで言ってなかったと思うんですよ。嫁の出現によって、そうなったんだと思うんです。
――負の連鎖を自分の世代で止めるしんどさはなかったですか?
上沼 全部知ってる……というのもおこがましいんですけど、姑にいびられたこともあるし、子供がいじめにあった時は、戦いにも行ったし。色んなことを知ってる人間は、あえてできませんわ、いじめやいびりは。
私のモットーは、絶対に嘘つかないということです。ほらは吹くけど嘘つかない。そこがね、ファンが支持してくれたところなんですよ。
だから恥ずかしいことをバッと言っちゃったりするんですが。私、今、歯を治してるんですよ。差し歯が横に歪んでたんですね。それで歯並びが悪くなったのをネットで「上沼恵美子の歯並びって最低だ」って書かれて。
――上沼さん、エゴサするんですか。
上沼 その時たまたま開けちゃったんです。「上沼恵美子 歯」って書いてあったのがスマホに出てきたので。スーパーの駐車場で開けちゃって、ショックでしたね。どないしようと思いましたよ。
本当は私このまんま、それこそ死の扉がもう見えたわけだから、歯なんかガタガタで死んでやろうと思ってたんですよ。だけどそれを書いてくれた人のおかげで、背中押していただいたんですよ。これは嫌味ですわ。阪大の歯学部附属病院に行って、歯並びを治すことにしたんです。
ーーネットの声が上沼恵美子を動かした。
上沼 それをラジオで喋ったことで、私ぐらいの年の人から「勇気をもらった」というメッセージをいただいたんですよ。「私も歯医者に行きます」ってね。年いって、それこそ結婚したら女と見られなくなり、出産したらおばちゃんになり、気がついたらもう老人になって、そんな時に口開けて歯を治しますか。
この間、歯の型とってる時にね、夢みてました。走馬灯のように若い頃の思い出が蘇りました。初舞台、名古屋の大須演芸場でお姉ちゃんと漫才やった時とか、3歳の時に雷がバーンと落ちて死にかけた時とか。ああ私、年いったなぁって。やっぱり消えてなくなりたいな、死にたいなって思いましたね、ちょっとだけ。
ーーはい。
上沼 でも、生きててまだもうちょっとマイクの前でしゃべりたいんだったら歯も治せ、って誰かが言いました。もう一人の私が。
写真=釜谷洋史/文藝春秋