文春オンライン

「ありがとね。ええ女房をもろうた」返事すらできなくなった認知症の母を支え続けた90代父に学んだ“老老介護の先にあるもの”

note

凄絶かつ深刻でも“笑い”が起きる

 こう書くと、見るのが辛い映画ではないかと思われてしまいそうだが、それは大きな誤解である。なぜ、前作の映画がこれほどまで社会現象になったか。それは、どんなに凄絶で、深刻に見える場面でも、しばしば笑いが起き、なぜか思わず「ほっこり」してしまう不思議な魅力のある映画だったからだ。

「認知症のドキュメンタリーというと、なんだか怖そうとか、生々しい現実を見たくないと腰がひけてしまう人も多いと思うのですが、どうもこの映画は笑えるらしいよ、という噂が広がり、普段ドキュメンタリーを見ない人たちまで映画館に足を運んでくれました。台所で『なんでこんなことになったんかね……』と母が呟き、泣きながら私とふたりで話している隣の和室では、耳の遠い父が鼻歌を上機嫌で歌っていたり……(笑)。

 チャップリンは『人生はクローズアップで見ると悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ』と言いましたが、一時期、精神的に追い詰められていた私は、カメラを持つことで、『ヒキで見る』ことが少しずつできるようになっていきました。これは、認知症の方の介護をするうえでもお勧めの方法です」

ADVERTISEMENT

深刻そうに見える場面でもなぜか「ほっこり」

 映画のタイトル『ぼけますから、よろしくお願いします。』は、母の文子さんが元旦に新年の挨拶として信友さんに言った言葉である。もうひとつ、この映画の大きな魅力は、被写体である信友さんのご両親の存在そのものだ。