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「くたばれ、死に損ない!」と言われた82歳男性がVTuberに…フリープロデューサー・小国士朗氏が目指す”現実の中の理想をつかむ”企画作りとは

『笑える革命 笑えない「社会課題」の見え方が、ぐるりと変わるプロジェクト全解説』より #2

2022/03/31
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「くたばれ、死に損ない」と言われた82歳のおじいさん、VTuberに

 まずひとつめは、2018年に放送した「8・15無念じいといっしょ」という企画。

 無念じいといっしょ……?なんじゃそりゃ、と思いますよね。

 これはどんな企画かというと、長崎県で戦争や原爆の悲惨さを次の世代に語り継いでいく「語り部」として活動されている森口貢さんという82歳(当時)のおじいさんが、VTuber(バーチャルユーチューバー)に変身して、若者たちと語り合うという企画です。

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 この企画の発端は、2014年まで遡ります。当時森口さんが、とある中学校で生徒に向けていつものように語り部をしていたら、その場に参加していた男子生徒に、「くたばれ、死に損ない!」と言われたといいます。それは、当時Yahoo! ニュースのトップに掲載されるほど話題になりました。「こんなひどいことを言う子どもがいるなんて……」「学校の教育はどうなっているんだ」と、コメント欄は荒れに荒れました。

 ただ、森口さんはものすごくいい方で、もともと教師をされていたということもあってか、ニュースのあと、その子を憎むわけではなく、ただただ「自分の伝え方が悪かったんだ」と反省されていたそうです。

 さらに森口さんは、その反省を活かして、若い人たちに戦争の悲惨さを伝えるためにはどうすればいいのかと、発信の方法を試行錯誤されていました。「今の若者はFacebookらしい」と聞くと、すぐにFacebookアカウントを作成する。でも、なかなか若者とつながれず断念したりと、なんだかとっても前向きで、軽やかで、チャーミングな方だったんですね。

 そういったエピソードを知れば知るほど、僕たち「テンゴちゃん」チームは、森口さんと一緒に何かやりたいなと思うわけです。

 そこでみんなで唸って考えている時に、メンバーのひとりがボソッと「森口さんをVTuberにしちゃうってどうかな……」という、めちゃくちゃな企画をだしてきた。マジかそれ。めちゃくちゃ見たい!とみんなで大盛り上がり。

 当時はちょうど、VTuberが流行りだしていた頃でした。VTuberとは、2次元のキャラクターを用いて動画を配信する人のことを指します。「キズナアイ」などの固有名詞でお伝えした方がイメージがつきやすいかもしれません。

 戦争や原爆の悲惨さを82歳のおじいさんが真剣な口調で語っても、中学生にとってはテーマが自分から遠すぎて重すぎて、なかなか自分ごととして捉えにくい。それであれば、中学生にとっても身近であろう「VTuber」に森口さんが扮することで、一気に自分ごととして、前向きに「知ってみよう」と思えるのではないか……。