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2022/04/01

source : 文藝出版局

genre : エンタメ, 読書, ライフスタイル

思考を転がしていくと、不思議と次のシーンが浮かんでくる

「今回は、高い塔の中にいる少女の姿が頭に浮かびました。石造りの塔で、彼女を取り巻く空間は冷たく暗い。でも窓が開いていて、向こう側には春の日差しが降りそそぐ広い世界があって、春風がふわっと香ってくる。彼女は、その香りで、いま目の前に広がっている世界で起きていることを感じている。

 でも、それは、彼女にしか感じられないことですから、彼女はすごく孤独だろうなと思ったんです。鋭い嗅覚を持つ彼女が感じている香りの世界を、他の人は、感じていないのですから」

 タイトルにもなっている「香君」とは、香りで万象を知る活神のこと。はるか昔、初代の香君が神郷よりもたらしたオアレ稲によって、ウマール帝国は民を支配し、繁栄してきた。「オアレ稲」も「香君」も帝国を維持するために欠かせない唯一絶対の存在だったはずが、オアレ稲に虫害が発生したことから盤石だった社会の基盤が一気に揺らぎ始める。時を同じくして、帝国にやってきたアイシャも、また人並みはずれた嗅覚を持っていた。

ウマール帝国はオアレ稲によって繁栄していたが…

「アイシャが逃げて、逃げて、でもきっと捕まるだろうなというところを書き始めたら、物語がどんどん動き出しました。翌朝、朝ごはんをつくっている最中に、自分を殺そうとしている男に対して、あなたは毒をもられていると告げているアイシャの姿が浮かんだんです。マシュウも出てきた時は、まるっきりどんな人間か、わからずに書いていました。アイシャが彼に『あなたはリタラン?』と聞いた時も、リタランって何? と思った(笑)。

 きっと、青香草の匂いがしたから、そう聞いたんだろうと思って、そこからひとつの花を胸に抱いた求道者のイメージが浮かんできました。プロットを立てない代わりに、資料を読み返しながら、思考を転がしていくと、不思議と次のシーンが浮かんでくるんです」

 物語は人並み外れた嗅覚を持つ少女、アイシャと香君として生きることを強いられてきたオリエ、ふたりの運命を軸に、帝国の崩壊を食い止めるべく、オアレ稲の謎に迫っていく。

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