29日、岸信夫防衛相は記者会見で、今年度の防衛大学校の卒業生479人のうち、自衛官への任官辞退者が過去2番目に多い72人だったことを明かした。前年比44人増となる。辞退理由の内訳は「他業種への就職希望」33人、「一般の大学院進学」9人、「家庭の事情・その他」30人。これを受け岸氏は「極めて残念。全員がそろって任官するように努めたい」と述べ、任官拒否抑制のため、指導教官による面談などに取り組んでいると語った。

 いったいなぜ、これほどまで辞退者が続出しているのか。2月上旬、「週刊文春」には、学生たちの窮状を訴えるSOSが多数届いていた。コロナ禍で杜撰な対応を繰り返す防衛大の実態をスクープした「週刊文春 電子版」の記事を公開する。(初出:週刊文春 電子版 2月9日掲載 年齢・肩書き等は公開時のまま)

◆ ◆ ◆

ADVERTISEMENT

〈防衛大学校では常に後手の対応のため、コロナ感染が収まりません。そのため、濃厚接触者に指定された生徒は避難所のような場所で生活を強いられています〉

 2月上旬、防衛大学校の職員から文春リークスに届いた1通のメッセージ。そこには、学生たちの窮状を訴える文言が切々と綴られていた。

〈学生たちのストレスももう限界だと思います。喫煙所の前を通っても以前の学生たちの笑顔は無くなくなってしまいました。何より日々先の見えない生活を余儀なくされている学生たちのための記事を書いていただきたいです〉

***

記念講堂で、濃厚接触者の学生らが体を横たえる

 昨年9月、「週刊文春 電子版」は防衛大学校で新型コロナウイルス対策が不十分なまま、学生たちの感染者が続出していることを報じた。1年生がマスクのみで陽性者や濃厚接触者に食事を配膳していたこと、隔離者が仕切りも冷房もない部屋に複数人で押し込められて雑魚寝をしていたこと、そして隔離部屋から出たゴミが至る所に放置されていたこと……現役の学生たちの情報提供をもとに写真と共に詳報している。

 その後、コロナの波はいったん落ち着く。だが、年が明けてオミクロン株が猛威をふるうようになると、またしても防衛大の関係者から次々とSOSの声が寄せられるようになった。

 小誌は今回も複数の防衛大の現役学生に連絡を試みた。彼らへの取材を通じて明らかになったのは、昨年9月からほとんど変わっていない感染対策の実態だった。

「被災地の避難所のような状況」

 全寮制の防衛大では約2000名の学生たちが日夜訓練を共にしているが、年明けから2月7日までの陽性者数は150名を超えた。学生だけでなく、自由に大学を出入りできる現役自衛官の指導官や職員の感染も多いという。

 冬季休暇明けの1月5日のことだった。学校に戻ってきた学生たちは構内の記念講堂で抗原検査を受けたが、複数の陽性者が確認された。それを受けた防衛大はその日のうちに「校内ロックダウン」を決定した。

 対面授業と訓練は当面中止。陽性者と濃厚接触者の学生がすぐに隔離されることになった。陽性者は「教育棟」や「旧医務室」などの場所で隔離され、治療を受ける。とくに理不尽な目にあっているのが、濃厚接触者となった学生たちだ。防衛大での濃厚接触者の定義は「陽性者と同部屋の学生」。彼らは学内の「総合体育館」や「武道場」「記念講堂」などで2週間隔離されなければならない。濃厚接触者は200名以上もいるという。

総合体育館は、外からでも隔離者の様子が見える

 昨年9月と同様、1年生が隔離者への必要物資の運搬を命じられている。1年生のA君が証言する。

「何度か隔離された人に配膳をしに行きましたが、どの隔離場所もプライベートな空間は全くない状態で学生たちが隔離されています。特に『総合体育館』は被災地の避難所のような状況でした。ヒーターこそあるものの、施設自体が広く、空調設備もないため非常に寒いのです。濃厚接触者だからといって……そんな場所で何週間も雑魚寝して過ごすのは辛すぎる。毛布1枚で寒さをしのげるとは思えません。体調を崩してしまいます」

総合体育館の様子。仕切りなどは見当たらない

 感染を防ぐため、配膳は“置き配”スタイルを採用。隔離場所の入り口まで1年生が必要物資を運び、彼らが撤収した後に隔離された学生たちが各々で取りに行くのだという。直接接しないとはいえ、A君は「正直、怖い気持ちはあります」と打ち明けた。

防寒具として支給されるのは薄い毛布のみ