ミラー号の存在は社内文化にも大きな影響を及ぼし、当時は「ナンパの技術」がその後のキャリアを左右することもあったという。野本社長が新卒採用された頃には、制作部に進む人間がナンパの成果を基準に選別され、「誰よりもナンパができた」ことで野本社長エリートコースへの切符を掴んだ。
ミラー号を復活させた「寝取られ」シリーズ
とはいえもちろん、どんなコンテンツであってもヒットを維持し続けることは難しい。ミラー号シリーズにも、売上が低迷する時期が訪れる。撮影本数も激減するなか、野本氏はミラー号のレーベルを新たに立ち上げ、再起に向けたプロジェクトを始動する。
そのなかで起死回生の一手となったのが、「カップル限定」というシリーズである。マジックミラーの向こうに彼氏がいる状態で彼女が男優と行為に及ぶという、いわゆる「寝取られモノ」の走りとしてヒットした。
「ミラー号への思いも強かったので、復活させたいというところで作ったのがあれですね。結果的にものすごいドル箱企画で、当時は単体デビューでもなかなか1万本いかないって時代に、2万本の大台を超えていきました。あれでまたミラー号の稼ぎ頭としての地位を取り戻せましたね」(同前)
ところで寝取られモノは、その頃同人誌や成人向けゲームなどで流行していたジャンルである。主人公以外との行為にふけるヒロインを目の当たりにし、嫉妬に駆られながらもそれを興奮の材料とする、といった構図であり、いささか倒錯した性癖と見なされている。万人受けするようなジャンルではないが、この要素をミラー号に取り入れた理由はどこにあるのだろう。
「ぼくが寝取られ好きっていうのもあるんですけど。当時はまだその言葉が知られていなくて、みんなが『このモヤモヤは何なんだろう』と思っていたところに、二次元の方から『寝取られ』ってジャンルが出てきて。『あ、これ寝取られっていうんだ』という気づきの段階だったんですよ。
その寝取られっていうものをディープなフェチにするんじゃなくて、ミラー号でライトにしようと思ったんです。ジェラシーや嫉妬って、エロの普遍的なベースにあるものですし、ライトな形で世間に気づいてもらえれば、この性癖は理解されるはずだと。
あとはマジックミラーをうまく使って、『彼氏が向こうにいるのに』っていう、ミラー号本来の使い方をちゃんともう一回やろう、というのがありました」(同前)
寝取られのシチュエーションがもたらす女性側の背徳感や、男性側の無力感を増幅する舞台装置として、マジックミラー号は新たな役割を担うことになったのである。