奈良時代の墾田永年私財法発布から数えるとおよそ750年。平安時代後期に始まった中世荘園制の成立から数えても400年。荘園は長く存続し、日本社会に大きな影響を与えた。本書はそんな巨大なトピックの通史を描いた新書だ。気候変動研究の成果など最新の知見を活かし、テーマを現代的に刷新してもいる。
「予想していた以上にスケールの大きな内容で、日本の歴史のかなりの部分を荘園の時代が占めていたことを、改めて認識しました」(担当編集者の並木光晴さん)
荘園は戦後、マルクス主義歴史学の影響で強い関心を持たれた時期もあった。だが、その波が去ると、英雄的な人物が不在のテーマであることもあり、比較的地味な扱いに。
「すぐに売れなくとも、社会科の先生を中心に細く長く読まれるロングセラーになってほしい。教科書に絶対出てくる重要なテーマなのに、複雑で全体像をつかみにくいものを、どう子供にわかりやすく教えるか。真面目な先生ほど困るはずなので、そのような方の助けになれば……。そう考えて出した本が、発売直後から多くの方に手にとっていただけている。うれしくも驚いています」(並木さん)
比較的若い歴史ファンが初速を支え、そこから中高年に読者の裾野が広がった。レーベルの培ったブランドと、日本中世史ブームもヒットを後押ししたか。
2021年9月発売。初版1万3000部。現在8刷5万8000部(電子含む)