1957年(92分)/東映/4950円(税込)

 仕事で作品を見直す場合、衛星放送の録画で事は足りるので、DVDが出ているのかは気にならなかったりする。そのため、発売情報を知って「え、まだDVDになっていなかったのか!」と驚かされるケースは時おりある。

 今回取り上げる『仇討崇禅寺(そうぜんじ)馬場』も、そんな一本だ。

 名匠・マキノ雅弘監督による傑作時代劇で、録画した分を何度も観ていたから、「当然、DVDも出ているはず」と思っていた。だが、実はこの三月にようやく発売された。

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 マキノ雅弘監督といえば、「次郎長三国志」シリーズや「日本侠客伝」シリーズに代表されるように、笑って泣かせて――当意即妙のリズムに乗った演出で観客の気分を盛り上げる、ひたすらワクワクさせる作品を撮ってきた。特徴的なのは群衆シーンで、町の衆たちが集まってお祭り騒ぎをする熱狂が、作品全体に賑やかな活力を与えていた。

 本作においても、そうした群衆シーンは出てくる。ただ、それが描くものは、楽しい賑やかさとは対極的だった。

 物語は大和郡山城から始まる。藩主が開いた武芸大会で藩の武術指南役・傳八郎(大友柳太朗)は若輩者によもやの敗退。お役御免にさせられた上に、婿養子で入っていた家も追放される。そして、ふとした諍(いさか)いから自分を倒した若輩者と真剣での果し合いとなり討ち果たしてしまう。

 傳八郎は藩を逃れて難波の沖仲仕の元に身を寄せるが、そこに仇討のために若輩者の兄弟がやってくるのだ。

 ここで、問題のシーンが訪れる。傳八郎は正々堂々と戦うつもりで決闘の場におもむくのだが、傳八郎に想いを寄せる沖仲仕の娘・お勝(千原しのぶ)は人足を集め、助っ人に向かわせてしまう。

 大勢の人足たちが兄弟を囲む様は、マキノらしいお祭り騒ぎで描かれている。にもかかわらず、画面は重苦しい。「やめてくれ!」と必死に止めようとする傳八郎の叫びが、空しく響いているからだ。

 兄弟は人足たちにより無残に殺され、傳八郎は卑怯者の烙印を押されることになる。マキノ作品の楽しさの象徴ともいえる「群衆シーンの賑やかさ」が、本作では主人公を追い込む悲劇のトリガーとしての役割を果たしていた。

 この後、傳八郎はひたすら狂気の闇へと堕ちていき、遂には常軌を逸してしまう。その大友の芝居も強烈だ。

 人々の善意がかえって重い十字架になってしまう――。そんな皮肉が、本作の群衆シーンには込められていた。

 マキノが群衆シーンの名手と言われる所以は、こうした点にもある。使い方次第で、映し出される心情が全く異なることを熟知しているのだ。

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