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「何となく違うんだよなぁ」はダメ

――では少し聞き方を変えて、吉田さんがゲームのプロデューサー、ディレクターとして大事だと思う能力は何ですか?

吉田 自分が考えたこと、考えていること、感じたことを一生懸命説明する、というのがひとつ。もうひとつは物事の方向性、コンセプト、仕様など、あらゆる決断を迫られたときに「濁さずに決める」こと。このふたつを大切にしています。何かを決める、というのはすごく怖いです。それは今も変わりません。でも責任者の仕事は決断すること。それで物事を決めたら、その決断の理由をキチンと説明する。だから僕は、今でもスタッフと話をしたりメールで返事を戻す際には、説明を徹底するように心がけています。最初は大変ですが、理解が進めばそれだけ決断の結果は早く出てくることになります。

――説明する、というのは具体的にはどういうことでしょう。

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吉田 たとえばアーティスト(デザイナー)が作ってくれた、新しいマップのビジュアルをチェックして修正ポイントを伝えるとします。でも僕には絵の才能が全くないので、自分で「こんな感じ」と描いて伝えることはできません。だからこのビジュアルの目指す目的は何で、そのために何が必要で、今の状態だと何が足りないと感じていて、何が余計と感じるのか、どう変えれば良くなるかを、理論立てて具体的に根気よく説明しないと、僕がイメージしているものに近づけられない。相手が納得してくれるまで、説明が必要だと思っているんです。僕は直接的な作業者ではないからこそ、何としても自分が持っているイメージを伝え、相手の能力でそれを表現してもらうしかない。他の業界でもあることかもしれませんが、ゲーム業界にも「何となく違うんだよなぁ」という曖昧なダメ出しをする人がいます。僕も自分でデータを作り、スクリプトを書き、テキストを書いてきましたが、そういった曖昧なフィードバックに、ずっとイライラしてきた経験があります。自分はそう思われたくない! という恐怖心が、僕を支えてくれています(笑)。

 

――エヴァンゲリオンシリーズの庵野秀明監督がドキュメンタリー映像の中で「これじゃないってことが分かった」とスタッフの案に伝えていた場面を思い出してしまったのですが……。

吉田 いや、今のたとえを庵野さんのような天才と比べるのはダメです!  庵野さんが「違う」って言ったら、多分それは本当に違うんです。神のことを人間が理解しようとしたらダメです(笑)。上司が庵野さんなら、僕だって「わかりました何か違うんですよね、そのきっかけだけでも掴みたいんで相談させてください」ってなります。でもほとんどの人は、庵野さんではありません。キチンと説明する必要があるんです。

――吉田さんはFF14の開発状況やアップデートの解説をする「プロデューサーレターLIVE」でも、本当にあらゆることをオープンに説明されていますよね。そういえば取材にあたって2010年に吉田さんが就任した直後の第1回ライブを見直したのですが、当時のスクエニの社長が出てきて旧14の失敗について謝罪したうえで、吉田さんが「もういいですから」と追い払うように退場させたのは今見ても少しハラハラする展開でした。

昨年12月に発売された「暁月のフィナーレ」

吉田 古いものを見ていただいて、お恥ずかしい……(苦笑)。でもあれは、当時の社長に「すぐ追い出すからよろしくお願いしますね」と頼んでいたのです。ご本人も「それで上手く回るのなら、全然オッケー」という感じでした。ただ、大企業の社長が1つのゲームの生放送に出演し、プロジェクトの失敗を謝罪し、そして無名の新任プロデューサーに追い出されるという流れは、プロジェクトそのものに安心感を与えてくれるはずだと確信していました。僕は中途入社した開発者で、メディアさんへのインタビューも基本はお断りしていたこともあり、当時は誰も僕のことを知らない状態でした。しかし、社長が「こいつに任せる」と内外に明言してくれたことで、その後の仕事はとても進めやすくなりました。

――社長に「追い出すから」という提案をすることのハードルは感じませんでしたか?

吉田 いえ……なかったです。それでクビになるんだったら、まあ、それまでかなという性格なのです(笑)。でもそれがFF14にとっても会社にとっても、社長にとってもプラスに働くとは思っていました。社長もそれが分かったからこそ、すぐにOKしてくれたのだと思います。FF14を立て直していく、という当時の社長の意志を僕は信じていましたし、社長も僕を信じてくれていたからこそかもしれません。