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「『何となく違うんだよなぁ』という曖昧なダメ出しにイライラしてきた」FF14を12年間率いる吉田直樹氏が、スタッフにとにかく根気よく説明する理由

「『何となく違うんだよなぁ』という曖昧なダメ出しにイライラしてきた」FF14を12年間率いる吉田直樹氏が、スタッフにとにかく根気よく説明する理由

#2

2022/05/09
note

――そこから新生FF14を作り直し、10年以上アップデートを続けてくる中で、吉田さんの考える「いいゲーム」の作り方とはどういうものですか?

吉田 FF14に関して言えば、一番言い続けているのは「ゲーム体験ファースト」ということ。操作性やわかりやすさはとことん大事にするけれど、ポリゴンは多少めり込んでも割り切ろう、みたいなところです。ただ“多少”と言っても人によって基準が違うので、装備アイテムを1つ作るのに、完璧に丁寧に仕上げるなら何日かかる、もう少しラフで良ければ何日でできるというサンプルを出してもらって、基準を決めていきました。

――FFシリーズと言えば美しいグラフィックの印象が強いですが、それを抑える決断も必要なのですね。

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吉田 MMORPGやオンラインゲームの場合には、1画面にたくさんのキャラクターがいて、しかもそれがプレイヤーの意志によってバラバラに動きます。さらにずっとアップデートを続けていくわけですから、グラフィックのクオリティを上げすぎると、それは結果的に自分たちの首を絞め、更にはプレイヤーのみなさんにお届けするコンテンツの量や速度にも影響し、とても苦しくなってしまうのです。むしろより素早く一定のレベルで作業を進めることこそが、オンラインゲームの楽しさにとって大事なクオリティのひとつなのだ、という話をチームで何度もしました。だから、良いゲームの作り方というのは作るゲームの内容によって変わると思いますし、そして、それがわかれば苦労しませんよ、という回答になってしまいます(笑)。

 

「少なくとも俺たちはおもしろいと思う」のが大事

――最後にお聞きしたかったのは、まさに吉田さんがおっしゃったオンラインゲームの「楽しさ」についてです。FF14は本当に幅の広いゲームで、とてつもなく強いボスに挑み続けているハードコアゲーマーもいれば、プレイヤー同士の戦いに熱中している人もいます。かと思えばファッションショーをしている人もいて、FF14の中で麻雀だけをしている人にも会いました。個人的にはストーリーにも本当に感動しました。吉田さんがゲームやそのコンテンツを作る時に大事にしている「楽しさ」ってどういうものなのでしょう?

吉田 うーん……、これも人によって解釈も違えば、受け取り方も違います。「楽しさ」という意識ほど、曖昧なものはそうないんじゃないかと思ってしまうくらい。結局、のたうち回ってみんなで話し合って苦しみながら「これは多くの人にとっておもしろいんじゃないか」、「少なくとも俺たちはおもしろいと思う」といったふうに、毎回決めていくしかない。FF14に追加するコンテンツで大事なのは、自分たちが作ったゲームを遊んだ時に、開発チームのメンバーの“誰かが”それを面白いと感じられることだと思っています。

――「吉田さんが」ではなくて、「誰かが」なのですね。

吉田 そうですね。FF14というゲームは、多様な価値観を持つ多くのお客様に楽しんでもらうためのテーマパークです。だから僕ひとりの感性や判断だけではダメなのです。もちろん僕は全てのコンテンツをチェックしてテストプレイもしますし、最終的には僕の信じたチームが作ったものに、自信を持って全てGOを出しています。一方で僕という1人のゲーマーから見て、全てのコンテンツが全く同じ面白さになるかと言えば、さすがにそれは建前すぎるのではないかと。人間には誰しも好みがあるし、可処分時間の使い方だって違う。だからこそ僕だけではなく、開発チームの誰かが心から面白いと感じて、それを僕に説明してくれて、僕がそれに納得できることが大事だと思っています。

――それがチームでゲームを作るメリットでもあるのですね。

吉田 FF14を開発/運営している第三開発事業本部のスローガンは「自分たちが面白いと思うものを作る。最悪トントン、でも赤字は絶対ダメ」というものです。赤字だと次のゲームを作らせてもらえなくなっちゃいますからね(笑)。

「『何となく違うんだよなぁ』という曖昧なダメ出しにイライラしてきた」FF14を12年間率いる吉田直樹氏が、スタッフにとにかく根気よく説明する理由

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