ネギがみじん切りであることを除けば、確かに岐阜更科を彷彿とさせる姿で、その美しさは更科以上だ。まさに「おそば、整いました」という雰囲気。美的センスが溢れる盛り付けである。
そばのコシは申し分なく、つけだれも上質の味
そばはかなり太めでコシが強い。加水の少ないタイプでそばの風味もよい。信州八ヶ岳産のそば粉を使う。配合も山根店主は相当研究したそうだ。十割ではボソッとした食感になり、同割ではそばの風味が落ちる。現在は二八前後でつないでいるという。
甘辛いつけだれは、三河味醂、ザラメ、上質な醤油を使って本返しを作り、本かつお節だけでとった出汁を合わせ完成させる。
たぬき(揚げ玉)は配合を試行錯誤し、サクサク感がでるように毎日ごま油で揚げることで豊かな風味がでるように工夫した。きつね(油揚げ)は松戸の安藤豆腐店から仕入れ甘辛く煮込んで提供している。食べ進めていくと最後にそばを少し残してそば湯を入れて温かいそばとして食べる。これがまた絶妙にうまい。岐阜更科でもこの食べ方がよくみられる。
麺の量は茹で上がりで約230gの「並」を注文したのだが、あまりの旨さにあっという間になくなった。
「たぬきときつね」の「冷やしたぬき蕎麦」を「岐阜更科」と比較してみた。外見はほぼ同じだが盛り付けは前者が綺麗だ。つけだれの出汁は異なるが(岐阜更科はかつお節の他、室あじ、うるめいわし、宗田かつおを使う)、甘辛い味はほぼ同じである。そばは概ね近い食感であるが更科の方が食べやすさを感じる。前者の方がそば粉の配合が高く加水も低く、太く硬さもあり、ワシワシと噛む感じが強い。つまり、山根店主の「冷やしたぬき蕎麦」は岐阜更科とは構成要素も異なり、ワイルド感がより一層強くなっていると思う。もちろん両者とも抜群にうまいことは言うまでもない。