3ヵ月で開店にこぎつけた「山根マジック」
ところがここからが山根店主のすごいところだ。「そこからそば屋の道が開けた」というのだ。いったいどういうことなのか。一般にラーメンはそばより加水率が高いと考えてよい(低いものもあります)。つまり購入した製麺機で、高い加水率で小麦粉ではなくそば粉でロール状の麺帯を作ろうとすると、麺同士がくっついてしまい、製麺できないという事態が発生したのである。
山根店主は「加水率を減らして角の立つ太麺でコシの強いそばを打つしかない」という結論に至ったという。そこでそば屋では珍しい切刃を特注で作製依頼し、14番薄刃を使用することで、今のそばを完成させたという。
すると山根店主は閃いた。「これで大好きな岐阜の更科の冷やしたぬきのようなそばが作れるかもしれない。いや、もっと太く硬いワシワシと食べる自分なりの冷やしたぬきそばができる。このそばを使って安価でありながら食べ応えのあるそばの店をやってみたい」と考えるようになったという。それから寝る時間を惜しんで、過去の記憶を頼りに自分なりのそばを考案し、気が付けば店名を「たぬきときつね」に決めて一気に開店までこぎつけたというわけである。まさに山根マジックである。
災い転じて福となす、山根店主の人生を応援
世の中にはそんなことが起きるのかと感心してしまった。人生は一度、しかも短い。その一瞬の転機を逃さず自分のものにした山根店主も相当必死だったのだろう。
最後に山根店主から、お客様に挨拶をもらうことができた。
「そば屋には色々なジャンルがありその広がりがあると考えていました。当店では商品を絞り、そばは勿論、出汁、つゆはその日のものでないとかつお出汁の香りが薄れるので、つゆは毎朝作ったものを使用し、鮮度にこだわっています。店はゆったりした小上がりもありますし、個室のような離れの席もあります。どうかコロナにはご注意いただき、是非お越しください」
「災い転じて福となす」的な要素を持った山根店主の人生を、今後も応援していこうと思う。そのうち、きっとこんなことわざが誕生しているかもしれない。
「そば食えば狸と狐で福来たる」(逆境を跳ね返し自分の道を切り開くこと)
写真=坂崎仁紀
INFORMATION
たぬきときつね
住所:千葉県松戸市新松戸1-218
営業時間:11:00~20:00 (時短営業期間中。通常は~22:00)
定休日:水
https://tanukito.com/