鉄道駅の「待合そば」は旅の風情を醸し出す重要な存在である。今では「駅そば」というらしい。しかし、時代が進み、お店経営者の高齢化や過疎の問題など複合的な要素で消えていく店も多い。
JR北海道の宗谷本線音威子府駅の待合所にあり、「駅そば」の頂点といわれていた「常盤軒」は2021年2月8日に閉店。JR東日本の小山駅の宇都宮線上りホームにあった「小山駅きそば」も2022年1月14日に惜しまれつつ営業を終了した。
「常盤軒のあのかき揚げそばをもう一度食べたい」「小山駅きそばの関東を代表するような濃い深い味をもう一度食べたい」という声も多い。それに応えるべく、その道の達人たちが水面下で四苦八苦しながら名店の味を復活させたというニュースが入ってきた。そこで今回はそんな2つの「復刻版駅そば」についてお話ししようと思う。
エピソード1 常盤軒の「かき揚げそば」
音威子府TOKYOが四谷三丁目駅近くの杉大門通りにオープンしたのはコロナ禍が始まる3ヵ月前の2019年10月1日のことである。音威子府は北海道で最も人口が少ない小さな街。店主の鈴木章一郎さんは当時、この地の名産である「音威子府そば」を東京で食べることのできる店を作りたいと、音威子府の畠山製麺に知り合いを通じて掛け合い、やっと営業に漕ぎつけたところだった。
ところが2021年2月8日、常盤軒の店主、西野守さんが亡くなり、店自体も80年以上の歴史を閉じることとなった。それ以来、「あの天ぷらそばをもう一度食べたい」という声がネット上でよくつぶやかれていた。
「かき揚げそば」復刻を決意
ところが2022年に入り、音威子府TOKYOから吉報が入ってきた。1月から常盤軒の「かき揚げそば」を復刻するというのだ。
「今年の2月8日が一周忌なので、何かやらないとならないと考えていました。それであの人気だったかき揚げそばを復刻しようと思いついたのです」