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セラピードッグは、心の“段差”を一瞬で平坦にしてくれる
たしかに犬が1匹いると人の集団がまろやかになる気はする。まるこを訓練した日本レスキュー協会のベテラン訓練士・安隨(あずい)尚之さんはいう。
「一般的に、人と人が向かい合うと、心に“段差”ができます。優越感と劣等感、上下関係、気位の高い人と低い人。押しの強い人と弱い人。われわれ人は段差があったままつきあうことが多いです」
人のコミュニティでは、“段差”がストレスという“水流”を生み、そこかしこを濡らしていく。
「ところが、犬はこの段差にスッと入っていって、一瞬で段差を無力化して、平坦にしてしまうんです」
犬のからだは段差にぴったりと収まり、もしゃもしゃの毛で悪意を吸い取ってくれるかのようだ。
まること出会って「あの人が……笑った」
当時のたじま荘には、入所以来、一度も笑わないことで有名な名物頑固おじいさんがいたが、まること出会って、笑いを取り戻した。職員たちは「あの人が……笑った」と驚きを持って喜んだという。犬は笑わぬ殿様を笑わせるのだ。
とくに老人ホームでは、犬が1匹いると、「むかし、私も飼っていたのよ、こんな犬でね……」と過去の記憶を辿る手がかりになることも意味が大きい。犬に触ることで指先のぬくもりや、命の鼓動を身近に感じることはもちろん、自分の自分らしさを取り戻す手助けにもなるのだ。