「犬の一番いいところは、人と一緒に気分が沈み込むことがないこと」
安隨さんの話に戻すと、彼の仕事は災害救助犬(レスキュードッグ)といやし犬(セラピードッグ)の訓練と運用。先の熊本地震や九州北部豪雨のときも、事案発生後、レスキュードッグとともに現場入りし、その後、セラピードッグを現地派遣する。まずは人命捜索。次に生きている人の心のケア。この順番だ。セラピードッグは仮設住宅が建ち、集会所ができた4~5か月後に現地に向かう。
「犬の一番いいところは、人と一緒に気分が沈み込むことがないこと。人同士だと、一緒に落ち込んでいくケースがあるんですよね、慰め合っていても。ところが、犬は落ち込まないので、犬を見ると人が元気になることがあるのです。人同士ではむずかしいことが、犬だと簡単に起こるのだ、と思うことが何度もありました」
意欲・活動性、会話、集中力、覚醒度、焦燥感、睡眠障害などに改善が
ドッグセラピーの効果がはじめて学術的に調べられたのは、1970年代中頃、アメリカのオハイオ州立病院。精神科の入院患者に犬によるセラピーを施したところ、社会性の改善が見られたことが端緒となり、「動物介在療法」は発展を始めた。
まるこが訓練を受けた日本レスキュー協会では、2003年に甲子園大学大学院の内苑まどか教授(当時)らと共同で、痴呆性高齢者(アルツハイマー病罹患者)にドッグセラピーを施す行動観察実験をおこなっている。その結果、意欲・活動性、会話、集中力、覚醒度、焦燥感、睡眠障害などに改善が見られた。
このことを裏付けに、アニマルセラピーの活動を進め、セラピードッグの育成と、特別養護老人ホームへの訪問活動や譲渡活動に力を入れている。これまで30頭ほど育成した、そのなかの一頭が、まるこだったというわけだ。
まるこは「犬捨て山」生まれの拾われた犬。そんな犬に、セラピーの役目が務まるのか。どんな犬でも訓練によってセラピー犬になれるのか。そのあたりは、後編「犬捨て山で生まれた雑種『まるこ』がセラピードッグになるまで」でお届けしよう。