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「『違法捜査はよくてなんでシャブはダメなんだ』って本気で思ってた」覚醒剤密売の“シノギ”で1億円以上の利益を上げた《極悪刑事の素顔》とは

「『違法捜査はよくてなんでシャブはダメなんだ』って本気で思ってた」覚醒剤密売の“シノギ”で1億円以上の利益を上げた《極悪刑事の素顔》とは

映画になった稲葉圭昭氏インタビュー#3

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交際費を賄うために稲葉氏が行った“シノギ”とは

「エスは正規の捜査にもヤラセ捜査にも必須。上手く付き合うために、道警では組織的に裏金を作ってエスにも充てていました。後でバレて大きな問題になりましたけどね。だから組織として拳銃を東京で買うとなれば、ぽんっと数十万円が金庫から出てきました。

 でも俺のような末端の捜査員には普段、そんな金は回ってこなかった。それでもエスの一人からカタギになりたいから500万円貸してほしいと言われれば貸すしかない。交際費や、エスと会ったり拳銃や覚醒剤を隠しておくアジトの維持費も相当かかりましたね」

 その費用を捻出するために稲葉氏がやったことは、道警の上層部に掛け合うことではなく、覚醒剤の密売だ。稲葉氏がこの“シノギ”を始めたのは1997年頃だったという。

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「当時の俺は『違法捜査はよくてなんでシャブはダメなんだ、変わりはしない』と正当化しました。密売は近くで見ていて稼ぎになるな、と知っていましたから。

 シャブは自分のアジトに置いていました。シノギに協力してくれるエスにしてみても、刑事の俺が借りている部屋は安全でしょ。その都度、手に入れたシャブを密売人に渡して売っていた。3、4年で1億円以上の利益はあったと思いますよ。それでも、交際費やアジトの維持費で自分の手元にはほとんど残りませんでした」

射撃訓練をする稲葉氏(奥)

犯行動機は「道警内で目立ちたい、褒められたい」

 稲葉氏は、冒頭にあるような全国の警察で発生している癒着をエスとしていたのだろう。そのような質問をすると稲葉氏は真っ向から否定した。

「癒着はしていませんよ。ヤクザから現金をもらうことはなかったし、捜査情報だって漏らしていない。俺は目の前にある事件を片付けるためにエスを利用していただけなんです。

 エスにしても、見返りを求めるというより、何かあった時に警察の傘下にいた方が便利だと考えていたはずですよ。あくまで利用し合う関係です。エスとくっついて金や女でいい思いをしたいのではなく、道警という組織内で目立ちたい、褒められたいという思いだけだった」

警察学校を卒業した際に母親と撮影した

 しかしそんな「利用し合う関係」は、稲葉氏をどんどん蝕んでいく。シノギとして使っていた覚醒剤に手を出してしまったのだ。稲葉氏は「間近でシャブ中を見ていたから、絶対に手は出さないと決めていたんだけどね……」と、バツが悪そうに振り返る。

「映画にもなっていますが、ある時エスがきっかけで仕事を干されたんです。そのエスは、銃器対策室の俺の元上司に『首無し(所有者不明の拳銃のこと)や、おとり捜査をばらすぞ』と脅迫した。すると『稲葉のエスはとんでもない』と道警内で“稲葉おろし”が始まった。これがきっかけで俺はやったこともない産業廃棄物の担当に回されてね……。拳銃の摘発数が多くて目立っていたから、色々なところからの妬みもあったんでしょう」

 そしてこのエスといる時、自暴自棄になった稲葉氏は初めて覚醒剤を打ってしまう。

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