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初めての覚醒剤は「物凄く良かった。まさにハッピーだよ」

「恥ずかしいことなんだけど、当時は本当にもうどうでもよくなっちゃって。でも最初は自分で打とうとしても血管が出てこなくて上手くいかなかった。それでエスに足の血管に打ってもらったんですよ。

 正直、その時は物凄く良かった。気持ちいいというよりは髪の毛が立ってザーッと全身の鳥肌が立つようなイメージ。宇宙まで飛んでいけそうな気持ちで、嫌なことだらけだったのを全部忘れてしまう。まさにハッピーだよ」

 堰を切るように、稲葉氏は毎日のように覚醒剤を打つようになった。

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「毎年、機動隊内で行われていた『隊祭』という、機動隊のお祭りみたいなものに参加したときの写真です。ジンギスカンを隊員みんなで食べる、今で言うところのBBQパーティーみたいなものでしょうか」(稲葉氏)

「ただ、良かったのは最初の数回だけ。あとは打っても泥酔したようにドロドロになるだけで、半ば針を刺すことが目的だった。自傷行為が目的でやっているようなものでした。覚醒剤の使用期間は逮捕されるまでの1年ちょっと。最初の快楽を忘れられなくて毎日やっていたから、逮捕直前の頃にはまともにものを考えられないしろれつも回らないような状態だったね」

覚醒剤に手を出した自分は全面的に悪い

 2002年7月10日、尿検査で陽性反応が出たため、覚醒剤取締法違反(使用)容疑で逮捕。現職警官の覚醒剤絡みの逮捕は衝撃的で、当時はメディア各社が大きく報道した。関係先のガサで拳銃と覚醒剤が見つかったため、営利目的での所持、銃刀法違反の罪にも問われた。

警察の柔道大会に出場した稲葉氏(右端)

「法廷では首無し拳銃やエスのことも少し話しました。おとり捜査で何の罪もないロシア人が逮捕された時に裁判で偽証したことも明かしました。そんな最中、当時の上司の一人が自殺しました。その上司に罪をなすりつける形で、道警は体裁を守りましたが……。

 道警という組織には問題点がたくさんあった。成果を上げるためには違法捜査も厭わないとか、隠蔽体質で、部下に責任を擦り付けるとかね。そのことも訴えたかった。ただ覚醒剤に手を出した自分は全面的に悪いし、まずは刑務所でしっかりと罪を償おうと思いました」

 2003年4月、稲葉氏は懲役9年の実刑判決を言い渡され、控訴せずに服役した。刺激的な警察人生を25年以上送った稲葉氏にとって、刑務所での暮らしはかつてない穏やかな時間だったという。